心臓突然死は交通事故死の20倍、心臓マッサージで救命率は2倍に!
昨年(2018年)4月、京都府舞鶴市での大相撲地方巡業で、挨拶中の多々見良三市長(67)が突然倒れました。女性2人が土俵にあがり手際よく救命措置を行い、2か月後、市長は後遺症もなく公務に復帰したそうです。多々見市長は鶴舞共済病院の院長を務めた循環器専門の医師で、2人の女性は同病院の医師と看護師だったといいます。
目の前で人が倒れ救急搬送されるケース(心原性心肺機能停止)は国内で年間約2万6千件、20分に1人の割合で発生しています(*)。
交通事故死者数の約7倍(**)で、目の前の人が急に倒れるということは、いつ起きても不思議でありません。
しかも近くに医師や看護師がいるとは限りません。どうすればよいのでしょうか(***)。
119番通報をしても救急車の到着までに平均8.5分(*)かかります。発症後数分で脳を始め全身の細胞が死んでいきます。
救急隊到着まで何もしない場合の救命率は9.3%(*)、心臓マッサージ(胸骨圧迫)などの心肺蘇生を行えば16.4%まで上がります。
速やかなAEDの使用で半数以上を救命できますが、近くに装置があるとは限りません。
だれもが胸骨圧迫できることが理想ですが、圧迫の位置や深さ、リズムという感覚をどう習得するかが課題でした。
胸骨の下半分を、胸が5~6センチ沈み込む強さで圧迫して完全に戻す、それを1分間に100~120回のリズムで…訓練用人形だけの練習では、なかなか感覚をつかめません。
一昨年のこと、愛知県小牧市の山下史守朗市長は、突然、人が心停止で倒れる場面に遭遇しました。
山下市長が救急隊到着まで自ら胸骨圧迫を行い、その人は一命を取りとめました。
ちょうどその10日前、市に寄贈された胸骨圧迫の練習用人形を使って訓練を受けていたことが役に立ったということです(「広報こまき」2017年5月3日)。
その人形には、訓練中に胸骨圧迫の位置や深さ、リズムをリアルタイムでフィードバックし、圧迫の動作を点数化するなど訓練の効果を高める機能が付加されていました。
心停止時の早期の措置は、救命だけでなく後遺症の予防軽減のためにも重要です。
医療機関・救急搬送システムの整備、AED設置の普及は進み、成果を挙げてきました。
健康長寿社会の実現のためには、市民自身の救急救命スキルもカギになりそうです。
* 総務省消防庁「平成29年版救急救助の現況(第4章 救急蘇生統計)」 平成28年度中に一般市民により心原性心肺機能停止の時点が目撃された傷病者数25,569人、一般市民による心肺蘇生が実施された傷病者数14,354人、うち1カ月後生存者数2,359人(16.4%)、一般市民による心肺蘇生が実施されなかった傷病者数11,215人、うち1か月後生存者数1,041人(9.3%)
** 警察庁交通局「平成29年における交通事故の特徴等について」 平成29年交通事故死者数3,694人
著者PROFILE
立松 淳(たてまつ・じゅん)
上場企業、政府系ファンド、政府系金融機関で、法務・コンプライアンス、リスク管理、監査等を担当。
その後、上場企業に復帰し、執行役員として法務、監査、新事業などを担当。
※記事で実例として紹介されている胸骨圧迫訓練装置(愛知県小牧市の胸骨圧迫練習用人形 ※実際には人形ではなく訓練システム)はこちら