防災格言こぼれ話 「火事を待つ人」（ジャーナリスト・朝比奈知泉氏）

明治から大正時代にかけて活躍したジャーナリストに、東京日日新聞の主筆をしていた

朝比奈知泉（あさひな ちせん / 1862〜1939）
という人物がいた。

この人、当時の人で、知らない者はいないというくらいの超有名な評論家であった。

司馬遼太郎の「坂の上の雲」にも登場する社会派新聞記者の陸羯南（くが かつなん / 1857〜1907）や、防災格言にも登場願った徳富蘇峰（とくとみ そほう）といったビッグネームの次には必ず名前が出てくる、そんな感じのえらい文化人なのだ。

大正時代。

彼が有名になった壮年期に笑い話でこんなのがある。

朝比奈知泉は、江戸時代末期、厳格な水戸藩士の家に生れた。
とっても秀才で、東京大学法科（中退）に合格、学生のくせに在学中から｢東京新報｣の主筆として政治評論を書いていた。
まさに文筆業をするために生まれてきたような人であった。
しかし、文系の悲しさ、算盤（そろばん）が不得手だったという。

そんな彼には、かなりへんてこな癖があった。

遠くのほうからでも、半鐘の音が「ヂャンヂャン」と聞こえてくると必ず外に出て「火事か火事か」と確かめたそうだ。
たとえ深夜であったとしても、ヂャンヂャンと警鐘が聞こえれば外に出て、その方角を見ては「ふむふむ」とつぶやき、静かに部屋に戻り、ぐうすかと、特に火事に慌てるでもなく、また喜ぶでもなく、半鐘の音を意に介せずに、何もなかったかのように深い眠りについたという。

繰り返される奇怪な行動に、近隣の人は、いったい彼は何を考えているのだろう、と首をかしげていた。

朝比奈家の老下女がいうには

「実は、旦那さまは、四千円の保険をかけている三千円のお家を大森にお持ちで・・・
　それで焼けた方がお得なのだそうです」

算数の苦手な彼もお金にはしたたかであったというお話しでした。

■「朝比奈知泉」に関連する防災格言内の主な記事
　徳富蘇峰(2009.07.27 防災格言)
　三宅雪嶺 (哲学者・評論家)(2017.01.30 防災格言)

■「ジャーナリスト」に関連する防災格言内の主な記事
　三宅雪嶺[1] (哲学者・評論家・ジャーナリスト)(2017.01.30 防災格言)
　三宅雪嶺[2] (哲学者・評論家・ジャーナリスト)(2017.07.31 防災格言)
　徳富蘇峰 (ジャーナリスト・思想家・評論家)(2009.07.27 防災格言)
　黒岩涙香 (ジャーナリスト)(2011.05.23 防災格言)
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　防災格言こぼれ話 「火事を待つ人」（ジャーナリスト・朝比奈知泉氏）(2010.07.29 編集長コラム)
　松岡俊三 (ジャーナリスト 政治家)(2016.01.25 防災格言)
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　菊池寛 (作家 ジャーナリスト)(2012.03.26 防災格言)
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　小田貞夫 (元NHK解説委員)(2009.08.17 防災格言)
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　大和勇三 (経済評論家 日本経済新聞社ジャーナリスト)(2010.03.29 防災格言)
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