思則有備(しそくゆうび)思えばすなわち備えあり

防災意識を育てるWEBマガジン

久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第4部

time 2018/04/30

久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第4部

工学院大学総合研究所・都市減災研究所センター長・教授の久田嘉章氏を講師に迎えたSEISHOP×遊学堂セミナー「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」が2018年2月6日、日本生命丸の内ガーデンタワーで行われました。4部に分けてその内容をお伝えします。
第4部は「新宿駅周辺地域防災対策協議会」の取り組みから、巨大都市における震災時の対応と訓練について学びます。

大都市の震災対策にも欠かせない「共助」の精神

「新宿駅周辺地域防災対策協議会」の活動をご紹介します。新宿駅周辺は夜間人口2万人、昼間人口30万人で、新宿駅は1日340万人の乗降客がいます。現状は地域防災計画とBCPがありますが、気を付けていただかなければならないのは、地域防災計画は夜間人口である住民向けであるということです。企業においては個々にBCPを策定しているだけです。新宿駅周辺のような巨大都市では、それでは資源とスペースの奪い合いになる。そこで、やはり共助が必要になるということで、「新宿駅周辺防災対策協議会」が発足しました。

高層ビルの火災時の対応

火災と震災は全く違います。訓練というと通常は火災を想定した避難訓練をします。しかし今、お勧めしているのは「避難しない訓練」ですから、少し違うことやっています。
まず火災時と震災時は全然違うということの確認です。
火災のときは、1カ所、どこかで起きるのです。必ず通報が必要です。それから自分たちが初期消火をする。そうすると防災センターの職員さんが非常用エレベーターを使ってやってきます。後から消防士さんもやってきます。そうすると、あとは指示に従って避難する。通報・初期消火・避難の訓練。この3点セットを必ずやってくださいというものです。これが通常の防災訓練や避難訓練だと思うのですけれども、これ以外の対応はプロにお任せします。これ以外のことはあまり必要ありません。

できるだけ自分たちで対応する

しかし震災は別世界になります。まず同時多発の災害。震度6以上だと高層ビル内で何百ヶ所いっぺんに被害が出るのです。階により被害の様相もまったく変わる。例えば、1階が震度6弱でも上の階はおそらく震度7が出る可能性がある。別世界なのです。しかも、防災センターは1階にあるので全然上のことが分からない。エレベーターは絶対に止まる。連絡もおそらくできなくなってしまう。
だから、基本的には誰も助けに来ない。自分たちでやらざるを得ない。天井が落ちたり閉じ込めが起こったり、怪我人が出たり。周辺も同じですから、基本的には誰も助けに来てくれない。いつかは来てくれるかもしれないですけれども、それまでは自分たちで災害に立ち向かうしかなくなってしまうわけです。そうすると、率先リーダーがいないと何もできません。建物の管理者はテナントさんと正しい知識を持って、初期消火・救援・救護・閉じ込め者救助をするということを覚えてください。
それから近くに資機材が要るということです。いちいち担架を取りに1階に行って戻ってくることはできない。救急用具も取りに行けないわけです。バールを取りに行ったりもできない。資機材を要所、要所に置いて、使える状態にして、使い方を覚えてください。
どうしても自分たちで対応できないというところは、元気な人が何とかセンターに駆け込んで、職員さんを連れてきて対応してもらうしかないのですけれども、まず来ないのです。防災センターは全館を統制するのが最大の任務なので、館内放送を出して適切な指示を出すことに集中しないといけないので、まず来ません。こういう知識を持ってもらうことが重要です。
あとは、共助です。自分の組織は自分で守る。自分の地域は自分で守る。自助でできないことは周辺の人に助けてもらう。新宿駅周辺地域のように膨大な人がいるところでは、地域の行動指針というのをつくって、むやみに移動しない。ビルから出ないでください。駅周辺の混乱防止に協力してください、というルールを定めます。
それから、現地本部、西口は工学院大学、東口は区役所になるのですけれども、そこで地域の方々と連携する情報共有の拠点をつくって連携体制をつくりましょうということです。もう一つ、たくさんけが人が出たときの対応も、自分たちでできるようにしましょう。仮にけが人が出たときでも、できる限り自分たちで対応しましょう。このような行動ルールというものを作りました。

新宿駅周辺地域の震災対策

行動指針と一時滞在施設・医療救護所

東日本大震災では、駅周辺にたくさん人があふれて、にっちもさっちも動かなくなってしまいました。そこで行動指針では、震災時には、西口には新宿中央公園、東口には新宿御苑と、周辺に広い公園があるので、そちらに移動してくださいというルールにしています。基本的にビルから出てはいけないけれども、ビルに被害が出たり、あるいは、行き場のない人たちは何とかそちらへ行ってくださいということです。
公園は何にもない吹きさらしなので、一時滞在施設が開設されたら、徐々にそこに収容します。
行動指針では震災後のフェーズに応じたルールを定めています。まず発災直後は混乱を防止して、身の安全を確保して、できる限りその場に待機する。その後は、残留・退避のフェーズ。もしビルがやられた場合や、行き場のない人は公園に行ってください。間違えても駅のほうには行かないでください。
その次は、身を寄せるところのない人、行き場のない人を一時滞在施設に収容します。最後は帰宅のフェーズで、1日か2日経つと周辺の状況が分かり、最長でも3日で救援救護の活動はひと段落しますので、そういう情報を提供して、帰れる人はどんどん帰っていただきます。
それから負傷者ですけれども、平常時と震災時は大きく変わる。たくさんの負傷者が出ると災害医療の体制になるのですが、一言で言うと病院には連れてこないでくださいということになります。どこに連れて行くかというと、病院ではなくて医療救護所に連れて行ってください。例えば地元の市区町村が指定している小中学校です。病院の近くに指定されている場合があるのですけれども、病院に軽症者が殺到すると身動きできなくなるので、ここでトリアージ(大事故・災害などで同時に多数の患者が出た時に、手当ての緊急度に従って優先順をつけること)をするということです。重症者の判別は地元の医師会がやるので、重症者だけが病院に運ばれて、あとの軽症者というのは地元で何とかしてくださいという体制になります。

昼間人口の人への対策が課題

最大の問題は、地域住民の防災計画はできているのですけれども、昼間人口の人に対しては防災計画がないということです。
新宿区の医療救護所や病院というのは、全部、住宅地の中にある。小中学校とかがそうなのですけれども、新宿駅の周りに医療救護所がないというのは大問題なのです。ずっと「何とかしてとほしい」と言っているのですけれども、どうしようもないのが現状です。
昼間人口というのは新宿区民でない人がほとんどです。誰が責任をもってやるのか。新宿区が一番表に立つことになるのですが、東京都に言うと「それは区の仕事でしょう」ということになります。こういうやり取りを延々とやっているのです。最悪の場合でも、病院はあるので、病院は何とか守りましょうということです。軽症者が行っても放っておかれてしまうので、何とか自分たちで対応しようということにしています。
講習会やセミナーで建物のチェックの仕方、消火器の使い方、応急救護のやり方などの訓練をやって、講習会もやっています。

防災訓練の事例

2016年度の新宿駅西口地域における防災訓練の概要です。自助についてですが、例えば超高層ビル。防災センターに自衛消防隊の本部隊ができて、これは全館をコントロールする、適切な館内放送をする。テナントさんによる地区隊が、自分たちでできる限りのことをやって、どうしても対応できないときだけSOSを出してくださいということです。けが人が出たら応急救護所をつくる。
それからテナントさんは自衛消防隊の地区隊を編成します。消火器の使い方だけでなく、バールで倒れた家具の下敷きの人を助けたり、変形したドアをこじ開けたり、応急救護をしたり、担架搬送をしたり。近くに必要な道具があって、それが使えるかどうかを判断する。それから、安全点検というのも自分たちでやらなくてはいけないので、チェックをしています。
自衛消防隊の本部隊について。これは防災センターの中に仮の本部を設置して、本部担当になった人たちが、何十、何百という被害が一斉にくるので、全館の状況を把握できて優先順位が付けられるかという訓練です。それから館内放送をして適切な指示が出せますかということを考えていただくようにしています。分からないなら分からないで「現状を把握しています。地区隊は活動を開始し、対応できない場合は本部に連絡してください」ということです。そんなことをやって、全館を同時多発の中でコントロールできるかどうかということを確認します。
共助に関しては、避難場所、一時滞在施設の開設、現地本部もつくって情報共有の拠点にする。それから、医療救護所も病院の近くにできるはずなので、自分たちで手の負えないけが人だけはここに搬送して、何とかしてもらう。区、都は全体に連絡して、どうしてもこの中で対応できないということは何とかしてもらう体制づくりをしていくということです。
けが人が出たら応急救護所を開設する。軽症者は、なるべくここの中で手当てする。それから、現地本部と連携して病院がどうなっているか。病院に運んだら何とかしてくれるのか、どうしようもない状況なのか、そんなことも確認しながらするということです。
現地本部には、駆け付けた人たちによって情報共有をして、避難所の情報、一時滞在施設の情報、公共交通の情報など持って帰る。サイネージで流したり、拡声器で流したり、館内放送をかけたり。地域の行動指針をつくってあるので、それをベースにフェーズに合わせた必要な情報というのをお互い流しましょうという訓練をやります。
最後は医療救護所の訓練です。たくさんの負傷者が集まってきたという状況で、これは医師会の先生方と協力して、お医者さんは、あくまでも医療行為、重傷者の判別や応急救護の指示に集中してもらって、あとの担架搬送や応急救護、あるいは情報を集約したり配信したり、これは一般市民のわれわれがやりましょうと。何とかして一人でも死者を減らすよう努力をしましょうということです。これを毎年やっております。

「逃げる」から「逃げない」へ

東京では地震の際、「逃げる」から「逃げない」対策が必要です。特に中心市街地は建物や地域から逃げない対策というのがものすごく重要になっています。建物や室内の安全対策、備蓄、それに逃げないための自助・共助の訓練、これは全て必要になります。本日の講義が皆様の参考になりましたら幸いです。
 

【その他の久田教授講演コラムはこちら】
久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第1部
久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第2部
久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第3部

【講師Profile】

久田嘉章教授
久田 嘉章(ひさだ よしあき)

工学院大学 総合研究所・都市減災研究センター長/建築学部まちづくり学科教授

1986年 早稲田大学院理工学研究科を修了、同大学助手。
1993年南カルフォルニア大学地球科学科助手
1995年より工学院大学建築学科の専任講師・助教授を経て現在に至る。
専門分野は、地震工学、地震防災。
著書に、『建築の振動―初歩から学ぶ建物の揺れ』(朝倉書店)、『逃げないですむ建物とまちをつくる─大都市を襲う地震等の自然災害とその対策─日本建築学会編』(技報堂出版)などがある。

久田研究室
http://kouzou.cc.kogakuin.ac.jp/newhp/

NHKそなえる防災 連載
http://www.nhk.or.jp/sonae/author/hisada.html

メルマガ登録バナー
E-mail
お名前
※メールアドレスと名前を入力し読者登録ボタンで購読

アーカイブ