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久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第3部

time 2018/04/29

久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第3部

工学院大学総合研究所・都市減災研究所センター長・教授の久田嘉章氏を講師に迎えたSEISHOP×遊学堂セミナー「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」が2018年2月6日、日本生命丸の内ガーデンタワーで行われました。4部に分けてその内容をお伝えします。
第3部は想定される首都直下地震の想定・対策について。首都直下地震においても「自助」「共助」により被害を抑えることができること、被害を出さないための事前対策だけでなく、被害が出た後の対応策を行うことの重要性を説かれています。

来るのは超巨大地震とは限らない

東日本大震災では「想定外」といわれることがたくさん起きて、最大級の地震による最悪のことまで考えようという流れに変わってきました。
例えば次の南海トラフ地震はマグニチュード8の東海地震で、発生確率が30年で87%と言われていましたが、いまではマグニチュード8~9の地震が30年で70%との言い方になりました。マグニチュード9という最大級の南海トラフ地震が起きると、静岡県はほぼ震度6、7になり建物がほぼ被害が起きる。20メートルの津波が次々やってくるという推定になります。

最大級想定地震と歴史地震の震度分布

あくまで防災の意識を喚起するものと割り切ってしまえばいいのですけれども、これほどまでの被害を想定すると、「こんな地震が起きればどうせ死ぬしかないのだから何をやっても無駄じゃないか」とか、「個人ではどうしようもないから国がやってくれないとわれわれは何にもできませんよ」などと、防災を諦めてしまう人が出てくる。
自助や共助でできることはたくさんあるはずなのに、諦めてしまう人を出してしまうのは、想定が極端すぎるのではないかと思います。
首都圏の地震についても、大きな被害が出るところとほとんど被害が出ないところとバラエティがありますから、何でもかんでも被害が出るわけではないということです。
最大級をどこまで考えるかというと関東地震のマグニチュード8.6というものがあります。しかし、正直に言うと、地震学者でこれが来るなんて思っている人はほとんどいないです。あくまで防災目的で最悪を想定するとこれが出てきます。確率はゼロではないのですけれども、もう少し現実的に考える必要があると思います。

建物の耐震化・室内の安全対策で備えを

2013年内閣府による首都直下地震(都心南部直下地震)の想定被害ですが、最悪条件(冬・夕方・風速毎秒8メートル)では全壊・焼失棟数61万棟、死者2万3000人、負傷者12万3000人、要救助者が5万8000人となります。都内の救急車は300台、病院も70でほぼ満杯状態となり、どうしようもなくなります。

首都直下地震の想定被害

そこで、一番必要なのは耐震化です。ここでいう耐震化というのは古い建物の耐震診断をして、最低基準でも今の基準に合うように補強をしてくださいということです。そうすると現状だと東京の耐震化率87%での建物倒壊による1万人の死者が約10分の1まで減らせます。
それから室内の安全対策、家具等の転倒落下防止対策。現状1100人亡くなる予測を半分以下にすることができます。屋内や屋外では落下物対策や転倒対策で死者を半分にすることができますので、これは何としてもやってください。室内の安全対策を怠ると、直接死者を出すだけではなく、その後の救援救助活動も火災の出方も全く変わってしまいます。

帰宅困難者は原則待機、そのための備蓄

避難者・帰宅困難者がどれだけ出るか。1日後では300万人。避難所はそのうち200万人を収容できる。けれども、そのうち水と食料がなくなってきて、2週間後には720万人ともっと増えてしまいます。ですから備蓄が必要になるのです。
あとは、避難所がきちんと機能しているかですけれども、避難所も被害を受けます。帰宅困難者も600万人から800万人。都内でも500万人の帰宅困難者がおそらく間違いなく出ると思うのですけれども、避難所が被害を受けると、この受け入れ先もありませんということになります。
住宅地の方は、基本的には避難しないでください。家が残っている人というのは、仮に、ライフラインが止まったとしても電気がなくてもトイレが止まっても、できる限り家にいてください。そのために、備蓄できれば、1週間分を備蓄してください。原則は自宅待機です。避難所というのは、あくまでも家をなくした人、あるいはなくす可能性がある人が行くくらいのスペースはあるけれども、そうではない人にはそんなスペースはありません。
それから帰宅困難者も原則は待機しましょう。そのために少なくとも3日分の食料は会社に備蓄しておいてください。あとは、1日たてば大体様子が分かりますから、帰ることができるまで1日、2日。長くても3日間ぐらいで帰ることができます。帰れるようになったら帰ってくださいということです。そのときに残る人と帰る人というのをきちんと事前に計画を立ててください。

「共助」の意識をしっかり持つ

首都直下地震の話ですけれども、いろんなパターンがあります。過去400年間で、マグニチュード7級の首都直下地震が起こったのは15回。別格の「元禄関東」と「大正関東」を除くと死者1000人以上出ているのは7000人以上の死者が出た安政江戸地震の1回しかないのです。「元禄関東」は海溝型の巨大地震なので、これは当面起きないと思われます。
あとは、多くて100人出ているのではないのかというのが3回。これは比較的浅い地震だったといわれているのです。あとはほとんど死者が出ていません。
 ですから、30年で70%の確率で起こるというのは間違いないと思うのですけれども、ほとんどはそんなに大被害を起こしたことはないのです。しかし防災上、あんまりこういうことを言ってしまうと、対策をやらなくなってしまいよくないので、こんな情報は出てこない。これが事実なのです。安政江戸地震の震度分布を確認すると、被害はまばらです。これなら共助ができます。
「どうせ東京は火の海でみんなやられてしまうのだから、自分のことで手いっぱいで、共助なんかとんでもない」とあきらめてはだめなのです。最悪の被害の想定ばかりが独り歩きすると、共助なんて不可能になってしまうわけです。けれども、安政江戸地震のようなパターンもあるというのは頭の中には入れておいていただきたいと思います。どこもかしこもやられるわけではおそらくないということです。
正確な情報で落ち着いて、まず自分のことをやって、お隣さんを助けるということがものすごく重要になるということを頭に入れて柔軟な対応をしていただきたいと思います。

「レジリエント」な対策を

「レジリエント」な対策が重要といわれています。レジリエンスは、元に戻る、復旧する、復興する、回復するという意味です。被害が出ることを前提にするのです。もとから被害を出さない対策がもちろん一番重要なのですけれども、そればかり気を付けていると、被害が出たらどうするのかというのが欠けてしまいます。福島の原発が典型でしたけれども、被害は最大級が来たら絶対出てしまうわけですから、事前に被害が出たときの対応というのを考えておきましょう。

レジリエンスな災害対策の概念図

何にもしないと、被害が出てから「どうしよう。どうしたらいいのだろう」とぐずぐずしているうちに復旧がものすごく遅くなります。まず被害を出さない対策をしっかりやって、被害を抑えて、被害が出たら柔軟に対応する。レベルに応じて復旧対策を事前にやっておく、多様な対策をやっておくことによって被害をすごく抑えられるということです。
災害というのは基本的には想定外の連続なので、事前の減災対策の準備もしっかりやるべきですけれども、被害が出た後のことまでしっかりやっておくということです。準備をして、被害が出たら対応して、復旧する。重要なのは、それを教訓にして次の計画に結び付けるということです。大きい災害も小さい地震も訓練も全部含めてこのサイクルを何度も何度もやって、いろんな教訓を組み入れて、準備をしっかりやって本番に備えるということが今求められています。

数十万円でできる耐震

被害を出さない対策は、低い建物ではまず耐震。がっちり筋違やブレースを入れたり、壁を丈夫にしたりします。
あとは免震建築です。建物に強い揺れを出さないようにゴムを入れます。超高層建築に関しては、「制震」と呼ばれる、揺れるけれどもすぐに抑えられる装置がいろいろ開発されています。新しいビルにはほぼ入っていると思います。今の超高層建築はほとんど制震ダンパーを入れています。超高層建築だったら減災ビルにしてくださいということです。

建物の地震防災・耐震設計

木造住宅の被害については、大体、被害が出るのは震度6強からですけれども、ここで弱い建物と強い建物とで大きく変わります。1981年に建築基準法が改正されたため、そこを境に大きく変わります。少なくとも現行基準でしっかり建てられていると、震度6強までならばほとんど耐える。全壊になることはありません。東京の想定は大体震度6強ですから、少なくとも首都直下地震に関してはここまでやっておくとほとんどの建物に関しては全壊になることはありません。万が一、震度7が来たら被害が出る可能性があるということです。
いくらでも丈夫にすることはできるのです。耐震等級1というのが建築基準法の最低基準で、2とか3とか、どんどん強くすることができるのです。あるいは免震建築があります。そうすると、震度7が来ても、熊本地震もそうだったのですけれども、ほぼ被害がゼロになります。
例えば、耐震等級が2とか3はお金がかかるのかというと、数十万円でできるといわれています。建築費をほんのちょっと上乗せするとものすごく丈夫になるので、ぜひやっていただきたい。

異なる建物の被害関数と震災後の対応

それから、古くなると木造建築は特にどんどん老朽化してしまうので、維持管理も大事だということもあわせて頭に入れておいていただきたいと思います。一言で言うと、いい建物をつくって長く維持することが基本です。

室内の安全対策が重要

それから室内の安全対策です。オフィスビルでは今はほとんどやっていると思うのですけれども、マンションやご自宅は、ぜひやっていただきたいということです。
重い家具をふかふかの石膏ボードにネジで留めても取れてしまいますから、しっかりした下地材に留めるのです。作り付け家具がベストです。

地震のレベルによって対策は異なる

あとは、震災のレベルによって対応が変わります。震度6強や6弱の世界と、震度7の世界は別世界になるので、その後の対応が大きく変わるということです。基本的には、震度6弱までは自助で対応できるはずです。震度6強は被害が出たり出なかったりするので、共助が必要になる。自分たちではどうしようもないので、逃げるか、救援を仰ぐか、共助が必要になる。持っている資材で対応可能なレベルです。被害に自分たちで対応できる。ここは何とか共助で対応できるレベルです。
震度7以上は自分たちではどうしようもない最悪のレベル。今、こればかりメディアに出ているのです。自助や共助ではどうしようもないといいますが、そんなことはない。可能性だけでいうと、東京の首都直下は圧倒的に震度6のほうが多いですから、やることはいっぱいあります。
少なくともレベルを3つに分けましょう。例えば高層ビルですと、レベル1は避難する必要は全然ないです。東日本大震災でも避難する必要はなかったと思うのですけれども。レベル2は、部分的には館内で避難する必要はあるかもしれない。上の階の人は何か被害が出れば下の階に移動すればほとんどビルから出る必要はない。レベル3は全館避難が必要だということです。
レベル1はイメージからいくと数年、数十年に1回。次の首都直下はまずは多分震度6弱以下だと思います。この場合は自助で対応可能です。レベル2は震度6強程度で数百年に1度で、共助で対応します。レベル3は震度7で、数千年に1度。この場合は公助が必要になります。少なくとも過去のデータでいくとこういうイメージですから、レベルに応じた対応策を頭に入れておいていただきたいと思います。

危機レベルの分類の例

発災対応型訓練を行う

それから、訓練の事例です。
従来型訓練といえば、避難訓練をやって、避難所に集まって体験型訓練をやる。「はい。みんな避難所に集まってきて」とアナウンスして、消火器とかチェーンソーを使ったり、バケツリレーをやったり、D級ポンプを使って火災の消火訓練をやる。これは大体やると思うのですけれども、これは飽きませんか。
別の訓練を今、お勧めしています。まずは地域の点検マップを作る。まず、自分のまちを知りましょう。お互いを知り合って、危険なところ、役に立つもの、役に立つ人、建築士や救急救命士など、いろんな方がいますから、そういったことを表示した地図を作る。この地域は木造密集市街地で、どこに消火器や消火栓があるかというところに落とし込んでいくのです。
次に発災対応型訓練って呼んでいるのですけれども、まず身近なところで起きた発災に対応する。例えば近所で火災が起きたらどうするか。訓練の際、火事の看板を掲げます。消火器はどこか、バケツはどこか、水を汲んできて、10分以内に来てくださいとお願いしておくのです。家屋倒壊の看板では、家が倒れたとき、救出するために、例えば機材があれば機材を持って練習し、使い方まで確認する。10分以内にできたら「〇」、できなかったら「×」という訓練をやるわけです。そうすると本気になってきて、みんなできてしまうのです。
こういうことをやると、だんだん生々しくなってきて、例えばD級ポンプを持ってくると実は水が出なくて全然使い物にならないと分かったりするのです。それから、同時多発で火災が出ると、実は自分のまわりにはポンプが使える人がいないということが分かったりします。
そうすると、スタンドパイプを自分たちで使いましょうということになります。道路の消火栓は普段は消防士さんしか使えないのですが、マンホールを開けてスタンドパイプを差して、ホースを入れてバルブを開けると、すごい勢いで水を出せるのです。消防署と掛け合うと自分たちで使うことができるのです。

共動による震災対策例
 

【その他の久田教授講演コラムはこちら】
久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第1部
久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第2部
久田嘉章教授講演「災害時、逃げる必要のない建物とまちづくり」第4部

【講師Profile】

久田嘉章教授
久田 嘉章(ひさだ よしあき)

工学院大学 総合研究所・都市減災研究センター長/建築学部まちづくり学科教授

1986年 早稲田大学院理工学研究科を修了、同大学助手。
1993年南カルフォルニア大学地球科学科助手
1995年より工学院大学建築学科の専任講師・助教授を経て現在に至る。
専門分野は、地震工学、地震防災。
著書に、『建築の振動―初歩から学ぶ建物の揺れ』(朝倉書店)、『逃げないですむ建物とまちをつくる─大都市を襲う地震等の自然災害とその対策─日本建築学会編』(技報堂出版)などがある。

久田研究室
http://kouzou.cc.kogakuin.ac.jp/newhp/

NHKそなえる防災 連載
http://www.nhk.or.jp/sonae/author/hisada.html

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