ここ何年かでは、個人的に最もショッキングなニュースだった。
それは、2005年2月23日(水)の毎日新聞の夕刊にポツンと小さく載っていた。
東海地震「首都圏まで放射能」神戸大・石橋教授 浜岡原発、国会で警告
――――との短い見出しからはじまる記事である。
記事は、東海地震説を最初に唱えた石橋克彦教授が、2月23日の国会(衆議院予算委員会公聴会)に公述人として出席し、東海地震で想定される震源の真上にある中部電力浜岡原発について言及したもの。
「 複雑高度に文明化された国土と社会が、人類史上初めて大地震に直撃される。もし東海地震で浜岡原発で大事故が起きれば、首都圏まで放射能が達する<原発震災>となる恐れがある 」
と訴えたそうだ。地震学者が国会で警告を発するのは、かなり異例の事態だった。
更に警告は続く、
万一、核が外部に放出されれば、東海から首都圏にかけて死者10万人に達する恐れがあるという。1999年のJCO臨界事故の規模を何百倍にもした恐怖が脳裏をよぎる。恐ろしい。
放射能が恐いのは、その得体の知れない恐ろしさだけではなく、被災地域では食料が汚染され、また被曝を恐れ外出できないなど行動が著しく制限されることだ。仕出弁当を注文しても、ピザを注文しても、もちろん30分で配達してくれるはずもない。
昨年2004年11月22日、原子力安全基盤機構で国内の3ヶ所の原発をモデルに、地震により1979年の米スリーマイル島原発事故のような大事故が起きる確率を試算したところ、最も高い原発で40年間に危険率が2%に達することが判明している。この時、3つの原発名は公表されなかったが、福島、大飯、浜岡の3原発だと巷では噂された。
中でも静岡県御前崎市に立地する中部電力の浜岡原発は、1976(昭和51)年に1号機が営業運転を開始し、現在まで5号機が増設されているが、東海地震の発生源の真上にあるという立地や、耐震基準の根拠の不明瞭や20年以上経った老朽化で知られる。その昔には、1号機で緊急炉心冷却装置系の配管で日本初の破断事故まで起こしてもいるのだ。
1981(昭和56)年に施行された現在の耐震建築基準は、地震の揺れの加速度を1923年の関東大震災クラスと言われる300〜400ガルに耐えるように考えられていた。つまり「関東大震災級にも耐えられる建物を!」だ。ところが1995年の阪神淡路大震災では、この揺れの加速度が600〜800ガルを記録し、ご存知のように、関東大震災に耐えられるはずだったビルディングや高速道路がもろくも倒壊してしまった。
今度は「すわ!1000ガルに耐えられる建築を!」と業界は色めいたが昨年の新潟県中越地震で十日町市で1750ガル、小千谷市で1500ガルを記録し、遂には新幹線までもが脱線した。
ちなみに地球の重力は約980ガルだ。つまり980ガル以上の加速度の地震では、地上にあるもののほとんどがすっ飛んでしまうことになる。自ずと設計上の限界も見えてくるだろう。
ところが浜岡原発は「600ガルの強い揺れに耐える」設計だという。新潟県中越地震を受けて、今春に、1000ガルまで耐えられるように耐震性を向上する工事を実施することになった。中部電力は「耐震性に問題はない。M8.5にも耐えられる」というが、どこか不安は払拭できない。
2003年7月、札幌市で開かれた国際学会で浜岡原発を巡り、東海地震の「名付け親」ともいえる地震予知連絡会前会長の茂木清夫東大名誉教授と石橋克彦神戸大教授の2人からこんな警告が発せられたという。
「世界でM8クラスの地震の想定地域に原発があるのは浜岡だけ。最悪の立地条件だ」
「地震により重大事故が起きた場合、犠牲者は無数に上り、放射能漏れで震災復旧活動は不可能となる」(国際学会の発言内容は1月24日の東京新聞の記事より引用)
以前も書いたが100%の安全はあり得ない。
「安全だ」と信じられていた神話が、過去に幾度となく崩壊したことか。
災害が恐いのはやり直しが効かないことだ。リスク評価を再考するのもまた「一つの安全」でないかと私は思う。
- ※「石橋克彦」氏に関連する防災格言内の記事
■今週の防災格言<175> 地震学者・石橋克彦氏(2011.4.18 防災格言)
■今週の防災格言<174> 茂木清夫氏(地震予知連会長)(2011.3.14)
■東海地震説の謎(2006.3.29)
■東海地震と石橋克彦教授(2005.02.28)
■国会で異例の警告 「大地動乱の時代」(2005.2.23)
■東海地震で対策大綱まとまる(2003.5.30)
■「JCO臨界事故」「原発」に関連する防災格言内の記事
-国会で異例の警告 「大地動乱の時代」(2005.2.23 編集長コラム)
-原子力発電所の珍事件(2007.8.21 編集長コラム)
-東京に原子力発電所を誘致する(2007.8.22 編集長コラム)
■「安全論・危険論」「防災論」「安全神話」に関連する防災格言内の記事
-「安全」を考える(2004.9.30 編集長コラム)
-日本の防災制度(2004.11.24 編集長コラム)
-教訓(安全神話とは何か)(2005.1.17 編集長コラム)
-苛政猛於虎也(苛政は虎より猛なり)(2005.04.13 編集長コラム)
-小田原評定(2006.1.29 編集長コラム)
-災害に備えるということは?(防災論事始)(2007.10.3 編集長コラム)
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