その昔「関西には地震は来ない」「関東大震災級にも耐えられる」といった安全神話がまことしやかに信じられていた。
いざ震災が起ると入れ替わるように、「阪神大震災級にも耐えられる」といった宣伝文句と「神戸はあと千年は地震が来ない」とか「住んでいるところに活断層がなければ安心」など、新たな神話の苗床を耳にするようになった。
昨年2004年10月23日に発生した新潟県中越地震では、新幹線が開業以来初の脱線事故を起こし<安全神話の崩壊>とクローズアップされた。
ちょうど10年前の1995年1月17日に神戸を襲った阪神淡路震災(兵庫県南部地震)でも、JR西日本管内の列車が運行中に9本脱線した。この時、運行中の列車に伝えられるはずの、緊急停車など輸送指令を無線送信するための通信ケーブル(光ファイバー網)が地震で切断、予備回路まで破損し、結局、運行中の9本の列車には「停車命令」が一度も届かなかった。
幸い、脱線による怪我人はなく、JRでマニュアル化されていた救急車の手配(乗客に怪我人が出た場合この無線で緊急連絡を行う手はずだった)など最悪のケースは一件も発生しなかった。しかし、運行中の非常事態に<命綱>として想定していた通信ケーブルそのものが壊れ、マニュアルの根幹を為す無線連絡そのものが途絶する事態というのは、JRにとって思いもよらない誤算だった。
こんな話もある。兵庫県では1991年に作成した地域防災計画に基づいて、神戸市内に緊急輸送に使用できる防災用ヘリポートを全部で12ヶ所指定することで、イザという時に備えた。しかし、大地震が発生すると、頼りの12ヶ所のヘリポートのうち11ヶ所も使用不能となった。震災当日に、自衛隊のヘリコプターが利用できたのは僅か1ヶ所だけだった。
ヘリポートそのものが被害を受け使用できなかったケースも当然あったがヘリポートの指定場所に、多くの住民が避難して来てしまったために着陸できなかった想定外の長田区のケースや、六甲山など5ヶ所の場合は、被災市街から余りにも遠すぎたため、使用すらできなかったという。絵に描いた餅とならず、1ヶ所だけ残ったのはせめてもの幸運だった。
他にも阪神震災では、阪神高速や高層ビル倒壊があった。これも安全神話を覆す「信じられないできごと」だと言われた。神戸市兵庫区の神戸高速鉄道「大開駅」は、地下1階の改札口から下のホームまで、大きく陥没した。地震の揺れによる直接被害では、地下鉄や地下街は地上よりは安全だとこの日まで信じられていた。
人は危険を想定し、システムを考え、マニュアルを作る。ミスがあれば訂正し、より良くしようと努力する。教訓とは、より良く作り変えるチャンスでもある。生かしてこそ教訓だ。
■「安全論・危険論」「防災論」「安全神話」に関連する防災格言内の記事
-「安全」を考える(2004.9.30 編集長コラム)
-日本の防災制度(2004.11.24 編集長コラム)
-教訓(安全神話とは何か)(2005.1.17 編集長コラム)
-苛政猛於虎也(苛政は虎より猛なり)(2005.04.13 編集長コラム)
-小田原評定(2006.1.29 編集長コラム)
-災害に備えるということは?(防災論事始)(2007.10.3 編集長コラム)
-毒矢の教え(フェイルセーフ論)(2010.7.30 編集長コラム)
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