暗闇を切り裂く光、鼓膜をつんざく轟音――科学の発展著しい今日においてもなお私たちを一瞬のうちに恐怖と混乱に陥れる自然の脅威「雷」。我が国では毎年約14人※もの人が落雷によって死亡。一方海外では落雷によってわずか3日間で59人が死亡するという惨事も発生するなど、決して看過できない天災です。はたして雷とはどのようなメカニズムで発生し、また、どのような対策があるのか。「雷」の真の姿に身近な災害という視点からアプローチします。
※1994年-2003年の統計(警察白書)
雷の「正体」と、3つの発生パターン
そもそも雷とはどのような自然現象なのでしょうか。
実は、それを知る手がかりは「雲」にあります。雲は地表の空気が太陽で温められ、空中で水蒸気となり集まったもの。雲の中の水分は上空へ行くほど氷に変化していき、今度は地表へ向かって下りていきます。この「上昇する氷」と「下降する氷」がすれ違う際に発生する静電気が、雷の正体なのです。
雨雲の発生と同時にとどろき始める雷ですが、実はその発生パターンは大きく分けて3つに分類されます。ひとつ目が「熱雷」。これは、真夏の暑い日差しが地表付近の空気を熱し、上昇気流となって発生するもの。2つ目が大気の冷気団と暖気団が接触する境界線に沿って発生する「界雷」。そして3つ目が低気圧や台風の中心付近といった上昇気流が活発なところに発生する「渦雷」です。
このほかにも、火山が噴火した際に噴火口付近で発生する「火山雷」などがありますが、いずれのパターンにしても雷は主に地表温度の高い夏期における急激な天候の変化がきっかけで発生する自然現象と考えていいでしょう。
※熱雷 界雷 渦雷 の類型を紹介した結論は? もやもやします。
“直撃”だけじゃない、電撃の種類とは
ところで雷にはその落ち方、すなわち「電撃」にもいくつかのパターンが存在します。
ひとつは「直撃雷」。雷放電による電流が、人体や建物、樹木を直撃(通過)するもので、人の命を奪うだけでなく建物の設備を破壊したり樹木を発火させ火災に発展するなどさまざまな危険をはらんでいます。一般的に私たちがイメージしている雷被害はおおむねこの直撃雷です。
このような直接的なダメージに対して、落雷による間接的なダメージが「雷サージ」と呼ばれるものです。例えば付近の建物や木に落ちた雷が電線などを伝って感電する「誘導雷」や、落雷によって地表の電位が上がり、雷サージがアースを通してパソコンや家電などに流れ込む「逆流雷」などがあり、単に「雷が鳴ったら建物に逃げ込む」だけでは、完全に安全を確保できるわけではないのです。
避雷針だけではない電撃対策
ではこれらの電撃についてどのような対策があるのでしょうか。
真っ先に思いつく雷対策といえば「避雷針」です。雷の放電電流は何百kAと非常に強力なため、避雷針がない状態で直撃してしまうと人体や建物へのダメージは必至。避雷針はこの直撃雷を、自ら受けて地面(アース)まで流すことで回避する、いわば雷の“おとり”であり誘導役なのです。
ところが、直撃雷の備えとして避雷針を設置したとしても、実はそれだけでは万全とは言えません。なぜなら、仮に避雷針で直撃雷を受け止めたとしても被雷した建物の電位が一時的に数十kV近くまで上昇し、建物内の機器に放電したり雷サージを発生させる結果、パソコンなどの電子機器を破壊してしまうからです。よく「雷が鳴ったらすぐにコンセントを外すこと」と言われるのはこの雷サージによるダメージを避けるためです。
そこで重要な役割を担うのが「避雷器」。避雷器はSPD(Surge Protective Device)とも呼ばれ、電源線や通信線に取り付けて使用されます。その役割は、「雷サージ(過電圧・過電流)を制御する」というもの。SPDを設置することで、万が一被雷した際にでもコンセントにさした状態の機器をダメージから守ることができます。
一戸建て住宅における雷対策は?
マンションや集合住宅を除いた戸建て住宅の場合、前述のSPDはいうまでもなく、避雷針も設置していないのが一般的かと思います。では、このような一般家庭ではどのような対策ができるのでしょうか。
実は、これに関しては「これをしておけば万全」と言える絶対的な対策はなく、「(雷サージによる被害を避けるために)コンセントを抜く」あるいは「LANケーブルを外す」といった、従来の対策を行うくらいしか方法がないのが現状です。
では雷という自然の驚異を前にして、私たちには何の手立てもないのかというと、そうでもありません。雷が私たちにとって脅威である理由のひとつが突発性です。「いつ、どこで発生するか分からない恐怖」。これに対しては最新の気象システムを用いた雷の検地と予報によって対抗しましょう。
そこで役立てたいものが、気象庁が提供する雷予想システム「雷ナウキャスト」です。
雷ナウキャストは、雷の激しさや雷の可能性を1km格子単位で解析し、その1時間後(10分~60分先)までの予測を行うもの。10分単位で更新されるので、ほぼリアルタイムに近い感覚で雷の発生を予想することができます。
それでも雷に遭遇してしまったときには
実際に雷に遭遇してしまった場合はどのような場所に避難すればいいのでしょうか。ここでは、雷発生時の適切な避難場所と、適切ではない避難場所について気象庁の発表を参考に分類します。
○:危険な場所
グランド、ゴルフ場、屋外プール、堤防や砂浜、海上などの開けた場所、
山頂や尾根などの高所
×:比較的安全な場所
鉄筋コンクリート建築、自動車(オープンカーは不可)、バス、列車の内部
ちなみに、木造建築内部の場合は全ての電気器具、天井・壁から1m以上離れることが前提とされています。
それでも、近くに適切な場所がない場合、雷が高い場所に落ちるという性質を逆手にとり、身近なものを避雷針に見立てるという方法もあります。電柱や煙突、鉄塔など雷が発生した際に近くにある高い鍛造物を活用しましょう。その際に重要なのが角度と距離。まず、電柱なり避雷針にする建造物のてっぺんを45°以上の角度で見上げる範囲に入りましょう。ただしあまり近づきすぎては危険。落雷には気象庁が定める「保護範囲=4メートル」と定められており、建物から4メートル以上離れることも忘れずに。
また近くに大きな物体が木しかなかった場合は、あまり近づきすぎず、幹や枝・葉から最低でも2メートルは離れましょう。姿勢を低く保ち、雷が止んでから20分以上経過したことを確かめて安全な場所へ移動するよう心がけましょう。
確実な備えは、雷の発生を事前に察知すること
さて、ここまで雷に出くわしてしまった際の対策をいくつか紹介しましたが、これらはあくまで「落雷と雷撃のリスクを下げる」ものであり、100%危険を回避するものではありません。雷にはまだまだ未知の領域があるため、どんなに避雷針やSPDなどの落雷対策を備えた設備に逃げ込もうとも、雷との遭遇を回避することの方が安全度は勝ります。最も確かな雷対策は、雷の発生を事前に知り回避することなのです。
そのためには朝の天気予報をチェックすることはもちろんですが、先ほど紹介した「雷ナウキャスト」などの情報源をフル活用して自分がいる場所に雷が近づいていないか調べるなど地道な対策が大切です。とかく非科学的な論説が飛び交う雷だからこそ、正しい情報だけを取捨選択し、いざという時に適切な避難行動がとれるよう常日ごろから備えたいものです。
■出典・参照