3) 避難の判断と避難場所への移動について
「避難情報」は自治体から与えられるものではありません。インターネットの普及に伴い、自治体が避難情報を発令する際の参考情報と同じものを、誰もがスマートフォンやパソコンで閲覧できる時代になっています。自治体からの避難情報は「きっかけ」として活用し、家族を守るための情報は自分で調べにいくという意識が必要です。
■数日先の大雨や台風の情報を収集する
自宅が「“立退き避難(水平避難)”の必要な家庭」に該当し、災害を伴う大雨の可能性に関する報道が出された場合は、情報収集が必要になります。各種ニュースを見ることも重要ですが、以下の気象庁サイトを活用すると、「いつ・どこに・なにが」生じるのかを詳しく調べることができます。
「早期注意情報(警報級の可能性)」(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/keika/
この一覧から自分が住んでいる都道府県→市町村のページを開くと、5日先までの各種気象警報の可能性を閲覧することができます。「いつ・どこに・どのくらい」に関する情報が分かりやすい台風と異なり、それ以外の「大雨」については特に警戒が必要な時期の特定がしづらいため、こうしたページが参考になります。
■1日~数時間先の災害の情報を収集
(1) 気象庁の「防災気象情報(注意報・警報・特別警報など)」を確認
(2) 自治体からの「避難情報(避難準備情報・避難勧告・避難指示)」を確認
災害発生の可能性が高まると、気象庁や自治体から各種の情報が発表されるようになりますので、スマホ・パソコン・テレビなどを用いて、具体的な危険が迫っていることを把握します。ただしこれらの情報は「○○市全域、○○万人に避難指示」といった具合に、地域が広めに発表されることがあるため、情報の絞り込みが必要になります。
また2019年の6月から運用が始まった「警戒レベル」では、「警戒レベル4」を「全員避難」と位置づけていますが、実際に対象者全員が「本当に」避難をした場合、全てを収容できる避難場所はありません。あくまでも「避難が必要な人は全員避難」という意味合いで発表されるのです。
自宅が堤防の真横にあったり、浸水時に完全に水没する地域などに住んでいたりする場合は、毎回空振りに終わったとしても事前避難をすることが望ましいのですが、それが難しい場合は「今回は本当に危ないのか?」「うちの地域は実際どうなのか?」を確認し、「本当に自宅周辺が危険な状況である」と判断される場合だけでも避難行動をとるようにしてください。
■リアルタイム~1時間先の災害の情報を収集
「自宅周辺の直近の危険」を知るためには、気象庁が公開している「大雨・洪水警報の危険度分布」ページが参考になります。現在または1時間先に、自宅周辺が「警戒レベル4」に該当する状態になる場合は避難の準備する、または避難を開始するといった行動を取ります。
1. 自宅が「土砂災害危険箇所・土砂災害警戒区域」に該当する または 近くに土砂災害の危険がある地形が存在する場合
- 大雨警報(土砂災害)の危険度分布
https://www.jma.go.jp/jp/doshamesh/
2. 自宅が都市部など、大雨で水が溢れやすい場所にある場合
- 大雨警報(浸水害)の危険度分布(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jp/suigaimesh/inund.html
3. 自宅周辺に河川がある場合
- 洪水警報の危険度分布(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jp/suigaimesh/flood.html
- ※大きな河川の場合は、危険度分布ではなく以下の情報をもとに、自治体からの避難情報が発令されるので、最寄りに下記に該当する河川がある場合は、あわせて状況を確認してください。
- 指定河川洪水予報
https://www.jma.go.jp/jp/flood/ - 川の防災情報
http://www.river.go.jp/kawabou/ipAreaJump.do?gamenId=01-0201&refineType=1&fldCtlParty=no
■避難場所への移動について
自宅から避難場所への立退き避難(水平避難)を行う際、避難が遅れてすでに周囲が浸水している場合は、無理に避難場所まで移動するのではなく、自宅の高い場所などへの「垂直避難」を行うことも検討します。水没した街の中を歩いて避難するのは、基本的には避けるべき事態です。
垂直避難をしても自宅が完全に水没する危険がある場合は、手遅れになる前に避難場所まで移動をするか、救助を求めることになりますが、マンションに住んでいたり自宅の2階が水没したりする可能性が低い場合などは、屋内に留まる方が安全な場合があります。
また浸水して足下が見えない状況での避難は、大変な危険を伴います。フタが外れたマンホールや側溝、道路との境がなくなった用水路や暗渠へ落下した場合はもう助からない可能性が高いですし、鋭利な物や危険な物が流されている場合は踏み抜く恐れもあります。足下が見えない状況では、垂直避難をしても命に危険が生じる可能性がある場合を除き、移動しないほうがよいのです。
足下が見えない状況を移動する場合は、杖・登山ストック・突っ張り棒・傘など何でも構いませんので、棒を使って足下の確認をしながら移動をします。また浸水が始める前であれば長靴などを履いていっても構いませんが、長靴が浸水する深さを移動する場合は脱げやすくなるため、靴底が分厚く溝が深い、できればハイネックの紐靴を履いて、脱げないようにきつくヒモをしばって移動してください。
【著者Profile】
高荷智也(たかに ともや)
(ソナエルワークス代表|備え・防災・BCP策定アドバイザー)
「自分と家族が死なないための防災対策」と「企業の実践的BCP策定」のポイントをロジック解説するフリーの専門家。大地震や感染症パンデミックなどの防災から、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝えるアドバイスに定評があり、講演・執筆・コンサルティング・メディア出演など実績多数。著書に『中小企業のためのBCP策定パーフェクトガイド』など。1982年、静岡県生まれ。
公式サイト「備える.jp」https://sonaeru.jp
https://shisokuyubi.com/bousai-plaza/inundation_inside_a_levee
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