都市部の浸水被害には「内水氾濫(ないすいはんらん)」と「外水氾濫(がいすいはんらん)」の2種類があることをご存じですか?
外水氾濫は、河川での堤防決壊・越水などにより、住宅地が浸水する事で、その危険性は今さら説明の必要はないかもしれません。
一方の内水氾濫は近年になって、危険視されている災害です。
国土交通省が全ての都道府県と市区町村に対し、「洪水ハザードマップ」と併せて「内水ハザードマップ」の作成を進めるよう通知している事からもわかるように、非常に危険な自然災害として認知されてきています。
内水氾濫が起きれば、1週間以上水が引かない地域があるなど、生活に大きな影響を与えるのはもちろん、命の危険にさらされる可能性もあります。
命の危険もある内水氾濫ですが、正確な知識を持っていますか?
この記事を読めば、内水氾濫について以下の事を理解することができます。
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• 内水氾濫の定義
• 内水氾濫のメカニズム
• 内水ハザードマップの必要性
• 過去の内水氾濫事例
• 内水氾濫の対策
内水氾濫について理解する事はもちろんですが、内水氾濫の対策を実施したい方は最後までご覧ください。
※参考サイト:高潮浸水想定区域図|東京港のご紹介|東京都港湾局公式ホームページ
そもそも内水氾濫とはどんな災害なのか
内水氾濫とは、排水溝から水があふれ出し、市街地が水に浸かる災害を言います。
台風や集中豪雨などで、下水道や排水路の排水能力を超える大量の雨が降ると、雨水を排水しきれず、あふれ出した水が市街地にたまります。これが内水氾濫です。
内水氾濫は以下の2パターンに分ける事ができます。
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● 氾濫型の内水氾濫
● 湛水型の内水氾濫
氾濫型の内水氾濫は、先程説明した様に、雨水の廃水処理能力を超える大量の雨が降ることで、マンホールなどから徐々に浸水が広がるもの。
湛水型の内水氾濫は、河川の水位が周辺の水位よりも高くなってしまい、下水道の廃水処理能力を超えていないにも関わらず、雨水の廃水ができず、浸水が広がるパターンです。
堤防が決壊するなどして浸水する外水氾濫と違い、内水氾濫は地上から水量が見えないので「気づいたときには水が溢れてきている」という事も十分にありえます。
外水氾濫のように堤防が決壊するなどの目に見える大きな被害がないので、大したことないと思いがちですが、内水氾濫も備えが必要な災害です。
その理由は、長期間水が引かないことです。
東京都が2018年3月30日に公表している、過去最大規模の台風が上陸したシミュレーションでは、以下のように出ています
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• 想定される最大の浸水の深さ:約10m
• 浸水が継続する時間:1週間以上(排水が完了するまで継続)
すべての地域で同じことが言えるわけではありませんが、浸水地域では物流システムが停止し、スーパーの棚に食料品が並ばない事も考えられます。
場合によっては停電や断水が発生する可能性もあり、普段通りの生活がおくれなくなる可能性もあります。
それが一週間以上となれば、備えが必要なことは言うまでもないでしょう。
※参考サイト:高潮浸水想定区域図|東京港のご紹介|東京都港湾局公式ホームページ
※参考サイト:東京港の津波・高潮対策|東京港のご紹介|東京都港湾局公式ホームページ
内水ハザードマップの必要性と、洪水ハザードマップとの違い
洪水ハザードマップと内水ハザードマップは同じものではありません。
それぞれ、浸水地域が異なるので、自宅が洪水ハザードマップの浸水地域から外れているからと言って安心してはいけません。
「洪水ハザードマップ」と「内水ハザードマップ」の違い
河川の堤防が決壊・越水するのが外水氾濫ですので、洪水ハザードマップでは河川の近くが浸水地域として記載されてます。
一方で内水氾濫は排水管から水が溢れて、市街地が浸水する災害です。
河川からの距離が離れていても、周囲よりも低い土地が浸水地域として記載されています。
川が近くにないから水害は大丈夫と思っていませんか?
川が近くになかった場合でも周辺よりも低い土地に住んでるなら、浸水の可能性があるので、内水ハザードマップを確認しておいた方がいいでしょう。
内水ハザードマップの必要性
内水ハザードマップを参考に、浸水時に自宅がどのような危険にさらされるのかをあらかじめ把握しておきましょう!
内水ハザードマップで確認できる項目は以下の3つです。
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• 浸水範囲
• 浸水深さ
• 避難場所
内水ハザードマップでは浸水期間については記載されていませんが、災害時の基本として、最低3日分、できれば一週間分の水と食料を備えておくことが推奨されてます。
災害発生直後は、支援物資が届くまで時間がかかることを想定し、最低3日分(できれば1週間分)の水と食料を備えておきましょう。
※引用元:3日分以上の水・食料の備蓄 ~命を守る3つの自助の取組~ – 埼玉県
※参考サイト:内水ハザードマップ 横浜市
過去の内水氾濫事例を調べてみた
過去、実際に起こった内水氾濫の事例を紹介いたします。
■ 東海豪雨(2000年9月)での名古屋市の事例
2000年9月、愛知県は台風14号と秋雨前線の活動により、最大24時間雨量535mm、最大1時間雨量93mm(名古屋気象台)という記録的な大雨に見舞われました。
名古屋市を流れる最大河川の庄内川は、この台風での越水はわずかでしたが、1時間あたりの雨量が100 mm 近くに達した段階で、名古屋市内で内水氾濫が発生し、市街地の1/3が浸水しました。
画像:東海豪雨時の野並 credit:Kazhidegu, wikipedia
※参考サイト:防災基礎講座 災害事例編:7. 内水氾濫の常襲地は雨水を貯留して洪水を抑制する役割の土地-2000年東海豪雨,1958年狩野川台風による首都圏内水災害など – 防災科学技術研究
■ 令和元年台風19号(2019年10月)での神奈川県の事例
2019年(令和元年)台風第19号では、広範囲で内水氾濫等が発生。
神奈川県のJR武蔵小杉駅構内にも浸水が発生、自動改札機が水没するなどの被害が発生しました。
また、一部のタワーマンションでは、電源設備が浸水したことにより、停電と断水が一週間以上続く被害が出ました。
画像:台風19号 JR武蔵小杉駅周辺 credit:令和元年10月23日 川崎市「台風第19号による排水樋管周辺地域における浸水被害説明資料」より
※参考サイト:まちづくりと連携した水災害対策について│国土交通省
※参考サイト:武蔵小杉のタワマン、氾濫対策で浮上する新たな懸念│日本経済新聞(2020年7月17日)
海外の内水氾濫への対策
海外でも、内水氾濫の危険性が認知され始め、欧米各国では次々に対策が打たれています。
オランダでは、100年に1度の確率で発生する浸水災害を対象にしたハザードマップを作成。
イギリスでは、100年に1度の確率で発生する浸水被害と、1000年に1度の確率で発生する浸水被害の2つのハザードマップを作成し、インターネット上で公開されています。
アメリカでは100年に1度の確率で浸水する範囲を基本として、500年に1度の確率で浸水する範囲の表示を加えたハザードマップの作成が進行しています。
海外でも危険視されている災害です。日本でも対策が急がれます。
※参考サイト:大規模水害を考慮した浸水想定に関する諸外国の取組│内閣府
増え続ける水害はもう他人事ではありません
近年の大型台風や集中豪雨の影響によって、1時間あたりの年間平均降雨量は年々増加しています。
気象庁のデータより自主作成 参照元:気象庁|過去の気象データ検索
上記のグラフは1時間あたりの平均降雨量を年代別に集計したグラフです。
2000年9月の名古屋市の事例では、1時間あたりの雨量が100 mm 近くに達した段階で内水氾濫が起こっている事を考えると、水害リスクは年々高まっていることがわかります。
このような状況で備えを一切しないというのは、リスクの高い行為だということは説明しなくても分かっていただけると思います。
※参考サイト:防災基礎講座 災害事例編:7. 内水氾濫の常襲地は雨水を貯留して洪水を抑制する役割の土地-2000年東海豪雨,1958年狩野川台風による首都圏内水災害など – 防災科学技術研究
内水氾濫の備え
個人で出来る、内水氾濫の対策には「水・食料の備蓄」「避難経路の確認」の2つがあります。
これらを詳しく解説していきます。
<避難経路の確認(内水ハザードマップの入手)>
一番近くの避難所までの避難経路を確認しておきましょう。避難所までの最短ルートが浸水箇所になっている可能性もあります。
家族のいる方は、家族との連絡手段や落ち合う場所などを確認しておきましょう。
<生活用水の確保>
断水に備えて飲料水・生活用水を準備しておきましょう。
水道水をペットボトルに入れて保管しておいてもいいですし、長期保存ができる保存水を準備しておくのもおすすめです。
<非常用持ち出しバッグの準備>
防災グッズを持ち出し用バッグに入れておけば、いざという時にすぐに避難することができます。
防災グッズリストの例
•懐中電灯
•乾電池
•スマホ充電器
•ライター、ろうそく
•救急箱(常備薬)
•携帯トイレ
•歯ブラシ
•ティッシュ、ウェットティッシュ(アルコールタイプ)
•ブランケット
•ヘルメット
•マスク
•衣類、タオル
•軍手
•貴重品(現金、預金通帳、印鑑など)
•非常食
•飲料水
女性や小さな子供のいる家庭は、これらも忘れずに。
•生理用品
•母子手帳と保険証
•粉ミルク、哺乳瓶
•おしりふき・おむつ
避難の注意点
避難の際は準備した食料とハザードマップを忘れずに、慌てずに避難してください。
安全な避難のために以下の注意点5つを忘れずにチェックしてください!
• 安全な避難を行うために、内水ハザードマップを確認して、どの避難所へ、どの道を使って避難するのか確認しましょう。
• 周囲が浸水した場合には、避難所に避難するよりも、自宅の二階以上や付近のビルに避難する方が安全な時もあります。周辺の状況を確認して避難しましょう。
• 避難するときは、動きやすい格好で、二人以上での行動を心がけましょう。
・ 避難中はできるだけ浸水していない場所を歩きましょう。
・ 浸水しやすい地域は「内水ハザードマップ」で確認できます。避難途中で危険を感じたら、自宅の二階以上や近所のビルに避難しましょう。
• 浸水している場合には下水道のマンホールや側溝等への転落のおそれがあり危険ですので注意しましょう。
※引用元:避難時に注意すること│国土交通省 河川局