火山の噴火の備えとして以前、「鬼界カルデラ噴火を知る~火山噴火災害とその備え」に記載をさせていただきました。私たちにできる大切なことは、火山ハザードマップ(火山ハザードマップデータベース:)であらかじめ危険な場所を確認しておくことや、避難場所や避難経路を確認しておくことです。
しかし、避難場所にたどり着いて一息ついたとしても、外に出る際には降り注いでくる火山灰に注意が必要です。今回は火山灰の脅威とその対策について触れていきたいと思います。
火山灰とは?その特徴について
内閣府による富士山火山防災マップ
富士山火山防災マップによれば、富士山が噴火した場合、火山灰が周辺の数十kmから数百km以上の地域まで運ばれる可能性があると予想されています。1707年の富士山噴火(宝永噴火)の際には、近隣の山梨・静岡だけではなく、神奈川・東京・埼玉・千葉まで火山灰(降下火砕物)の被害の記録が残っています。噴火が冬だったので、偏西風の影響を強く受けて、東側への被害が大きくなりました。
このように火山灰は広範囲へ降り注ぐため、もし遠方の噴火であっても安心できません。では具体的に、火山灰はどういった被害を与えるのでしょうか。
火山灰による被害例
ライフラインなどへも大きなダメージを与える
火山灰は「細粒(さいりゅう)火山灰」「粗粒(そりゅう)火山灰」という2種類に分類され、それぞれ異なる性質を持ちます。細粒火山灰は粒が細かく、水分を含むことで粘着質になるため、上空の水分を含んで「粘土」や「泥」のように降り積もります。一方の粗粒火山灰は粒が荒くてサラサラしているため、降り積もると「砂浜」のような状態になります。
水分を含んだ細粒火山灰が大量に降灰した場合、下水道に詰まれば水が流れなくなり、屋根に積もれば雪の3倍の重量で家屋を倒壊させる危険性があります。
粗粒火山灰が大量に道路に降灰した場合は、車が降灰を巻き上げ視界不良となり交通事故を引き起こす原因にもなります。
また、水分を含んだ火山灰は電気を通します。2016年の阿蘇山の噴火では、送電線と鉄塔の間にある絶縁体の「碍子(がいし)」に雨水が付着した火山灰が積もり、電流が湿った火山灰を伝って鉄塔に流れたため安全装置が作動し送電が遮断され、阿蘇市を中心に一時約27,000戸が停電しました。
被害は地上だけではなく、上空を飛ぶ飛行機にも及びます。視界を奪うことはもちろん、エンジンの燃焼室内に入り高温にさらされ溶融されるとエンジンを停止させる原因にもなります。
場合によっては健康被害も
火山灰の成分は、マグマが噴火する際に飛び散った「ガラス片」や「結晶」です。肉眼では灰のようにも見えますが、実際には硬く角ばった形状をしていますので、降灰量や気候によっては人体へも悪影響を及ぼします。
独立行政法人 防災科学技術研究所は、火山灰が与える健康被害として以下のようなものを挙げています。
- 呼吸器系への影響
- 目の症状
- 皮膚への刺激
先にも述べたように火山灰はガラス状に角張っていることから、吸い込むことで鼻やのどを傷つけます。深く吸い込むと肺の奥へ到達するため、健康な人でも炎症やせきなどが酷くなることがあり、長期的にさらされると「ケイ肺症」など深刻な病気の発症も考えられます。
火山灰の角は、呼吸器だけでなく目や皮膚も傷つけます。目の炎症は火山灰による健康被害の代表的なもので、目に引っかき傷や「結膜炎」を起こすため、コンタクトレンズを着用している人は注意が必要です。また、皮膚に傷を負っている人は、その傷が悪化する可能性があります。ガラス状になっていることもそうですが、火山灰は酸性の性質も併せて持っているため、炎症を促進させます。
降灰への備えと取るべき行動
では火山灰に対する備え、とるべき行動としてはどういったものがあるのでしょうか。
①前もって防災グッズを用意しておく
火山灰は一度降り始めると、場合によっては数日間にわたって降り続きますので、以下のグッズや生活必需品を前もって準備しておくことが望ましいです。
- 防護めがね、防塵マスク
- 最低3日程度の飲料水(1人あたり4Lが目安)
- 最低3日程度の保存食
- ラジオ(発電式が望ましい)
- ランプや懐中電灯
- 予備の毛布
- 予備のめがね
- 救急箱(医薬品を一通り揃える)
- 清掃用具(ほうき、掃除機のフィルター、ごみ袋、ショベル)
- 多少の現金
②降灰中は屋内に留まる
火山灰が降り始めたら、外出を避けて屋内に留まることを第一に考えます。自宅や職場にいる場合はそのまま留まり、屋外にいる場合は最寄りの施設や車の中へ避難し、降り止むまで待機します。
屋内へ避難できたら、まず初めに建物の戸締りを行います。窓やドアをすべて閉め、閉まりきらない場所は、湿らせたタオルやテープなどを使って隙間を埋めます。戸締りをする際に余裕があれば、雨どいや排水管を排水溝からずらして、下水がつまらないように工夫しましょう。
次に、懐中電灯、飲料水、保存食、毛布などを用意して停電に備え、ラジオやテレビから情報収集を行います。地域ラジオでは「噴火状況や降灰量の推移」「今後の清掃計画」などが放送されるので、情報を集めて冷静に対処しましょう。
③降灰後は火山灰を除去する
前述のとおり、火山灰は停電などの原因にもなるため、降灰後はすぐに取り除くことが大切です。しかし、様々な特性をもつ火山灰を考えなしに清掃すると、二次被害を引き起こす可能性があります。清掃作業を行う際は、以下の点に十分注意しましょう。
- 防護めがね、防塵マスクを着用する
- コンタクトレンズは外す
- 巻き上がりを防ぐため、火山灰を軽く湿らせる
- 機械や自動車、上下水施設に入らないようにする
- 屋根の火山灰を落とす際は、業者が自宅前の道路を清掃する前に済ませる
- 清掃後の火山灰の処理は、行政の指示に従う
日ごろから備えておくことが大切
日本の火山分布(上図)で一見してわかるとおり、日本は北から南まで無数の火山が連なっており、その数だけ噴火の脅威が潜んでいます。この火山灰の脅威について、災害の専門家である池谷浩氏(政策研究大学院大学特任教授)はこのような言葉を残しています。
『日本は世界でも有数の火山大国です。火山噴火による災害はいつ起こるやもしれません。火山周辺に住んでいる住民は、都道府県や市町村から出される火山噴火に関する防災情報に注意して安全を確保しましょう。また、火山とは程遠い地域に暮らしている人も、風向きによっては、はるか遠くの火山から火山灰が降ってくることがありますから、日本全体で火山噴火情報に気をつける意識を持つよう心がけましょう。』
1人1人が火山の恐ろしさを再認識し、噴火に備えて準備はできているのか、できていないとすればどのような準備をすべきか、今一度見直してはいかがでしょうか。体の中に火山灰を吸い込まないようにするため、マスクの着用はとくに重要です。マスクと一口に言っても、日常用、感染症予防用、災害用など用途別に分かれていますので、火山灰を防ぐために効果が期待できるものを選び、準備するようにしましょう。
非常食・防災グッズ・防災の専門店 SEI SHOP(セイショップ)でもマスクを取り揃えております。
■出典・参照