「死者3,676人」――。突然ですが、これが何の災害による被害かお判りでしょうか?
実はこの数字は東日本大震災による「災害関連死者」(2018年3月末時点)なのです。
震災をはじめとする災害において、私たちはとかく直接的な被害にばかり耳目を奪われがちです。しかしその一方で災害関連死に関する認識、理解はあまり進んでいません。2011年に発生した東日本大震災による災害関連死が今なお続いているように、「災害関連死」は災害の発生から数年経っても続く長期的で悩ましい問題です。自分が被災害の当事者になったときどう対処するべきなのか。今回は災害関連死について考えます。
そもそも「災害関連死」の定義とは?
「災害関連死」とは地震などの災害による直接的な被害ではなく、避難途中や避難後に発生した死亡で、災害との因果関係が認められるものを指します。最近では、自然災害に遭い、「災害弔慰金」の支払対象となる場合を指すことが多いようです。また、特に地震にともなう災害関連死については「震災関連死」と呼ばれています。
主な災害関連死は以下のようなものがあります。
主な災害関連死のケース
- 処方薬が摂取できなかったことによる持病の悪化
- ストレスによる身体の異常
- 不衛生な環境による体調の悪化
- 栄養不足や食欲不振による衰弱死
- 車中泊中の静脈血栓症(エコノミークラス症候群)
- 将来を悲観した自殺
- 仮設住宅で孤独死に苛まれ、過度の飲酒をしたことによる肝硬変
- 災害復旧作業中の過労死
- 地震による疲労が原因の事故死
数度の大災害を経て認識されてきた災害関連死
近年で最初に災害関連死がクローズアップされたのは、1995年に発生した阪神・淡路大震災でした。真冬の1月に発生したこともあり、避難所などでインフルエンザの集団感染が発生。その結果、約900人が命を落としました。阪神・淡路大震災の直接死数が6,434人ですから、震災全体で亡くなった人の約14%が「関連死」によって亡くなった計算になります。
また、2004年に発生した中越地震では車中泊により発生したエコノミークラス症候群などにより、54人が死亡。新潟中越地震における直接死が67人ですから、その多さが際立ちます。
そして、東日本大震災では冒頭にも述べたとおり、2018年3月時点で3,676人が亡くなっています。
このように改めて過去の大災害を数字で振り返ってみると、災害関連死の多さに驚かされる人も少なくないのではないでしょうか。
阪神・淡路大震災で定着した「災害関連死」という呼称
さて、このように災害の度に多くの死者を出してきた災害関連死ですが、その呼称が定着したのは1995年、阪神・淡路大震災までさかのぼります。実はそれまでは「関連疾病」という呼び名で病院関係者の間で使われる程度でした。
しかし、阪神・淡路大震災が発生した当時の厚生省が「震災と相当な因果関係があると災害弔慰金判定委員会等において認定された死者」との認識を示したことにより、初めて公的に「災害関連死」として認められました。
ちなみに行政上は「災害弔慰金の追加申請が認定された」という意味合いの「認定死」と呼ばれることもありましたが、統計上警察による検視を受けた「直接死」と区別するために「関連死」という呼び名が定着しました。
認識の定着とともに推移する弔慰金の支払い事例
現在「災害関連死」と認められた場合、被災した遺族には災害弔慰金法によって定められた災害弔慰金が支払われます。現行法においては、死亡した人が「世帯主」であれば500万円が、世帯主以外の家族であれば250万円が、遺族に支払われることになっています。
1995年の阪神・淡路大震災では6,434人が命を落としましたが、そのうち912人が「災害関連死」によるものと認定されています。しかし、ここで問題が発生しました。「一体、災害が発生してからいつからを“災害関連死”とするか」というものです。
そこでひとつの基準となったのが「長岡基準」というもの。これは中越地震の際に定められた災害弔慰金に関する基準で「地震から1週間以内の死亡は関連死で、1か月以内ならその可能性が高い。それ以降の場合は可能性が低く、6か月以降であれば関連死ではない」というもの。関連死であるか否かを、「時間」で区切ったものです。
ところが、この長岡基準も長くは続きませんでした。2011年の東日本大震災では地震が発生してから6か月を過ぎても明らかに関連死と考えられるケースが少なからず発生したのです。
復興庁による調査では震災発生後1か月以内が1,156人、1か月以上1年以内が1,480人、1年以上でも280人と、6か月を過ぎても関連死と認められるケースは少なくないのです。
身の回りの人の災害関連死を防ぐために
さて、このように災害弔慰金をめぐる災害関連死の定義は今もなお議論が行われていますが、いずれにしても何より重要なのは災害関連死の発生を防ぐことに他なりません。
災害関連死の多くは避難所で発生しています。自分や家族の体調管理はもちろんですが、同じ避難所で生活している他人についても“不調に気づいてあげる”ことが、最も有効な予防となります。
「あれっ、あの人大丈夫かな?」。そんな周囲をやさしく見守るまなざしを持って、以下のことを注意してみましょう。
①トイレに行けてないみたい…
トイレが使いにくい(和式、遠い、汚い、段差がある)/足腰が悪い/夜は暗く、男女共用でこわい
②食べものがそのまま残っている…
体調不良/かむ・飲みこむ力が弱い/食物アレルギーがある
③あの人、ずっと同じ服を着ている
着替えの場所がない/着替えを取りに行けない/お風呂に入れていない
④今日も1人でぼうっとして動かない
生活不活発病/やることがない
⑤いつ休んでいるんだろう?
運営者の過労/手伝ってくれる人が少ない
⑥あのお母さん、どこで授乳しているんだろう?
授乳室がない/ストレスで母乳が出ない/ミルクがない
⑦なんだか物資を取りにくそうにしている
女性用品や下着など恥ずかしくて言えない/取り合いはしたくない・取り合う体力がない
⑧あの子、こんなに乱暴だった?甘えん坊だった?
子どものストレス/遊び場がない
対策は災害関連死を理解することから
上記の8項目はどれも簡単に気づけることのように見えます。しかし、いざ自分が被災者になった場合を想像してみてください。衣・食・住すべてに不自由し、普段の冷静さと心の余裕を失った状況で、はたしてこれら8項目に気づいてあげられる人は決して多くはないはずです。
だからこそ、日ごろから災害関連死について理解を深めておくことが大切です。大災害が起きれば、直接被害の後に必ずこの災害関連死という、避けては通れない問題が発生するという事実をまずは認識すること。そして、いざという時に冷静に対処できるリテラシーを持つことが災害関連死を防ぐためには欠かせません。
2016年に発生した熊本地震では死者の約8割が「震災関連死」によって亡くなっています。この事実を胸に刻み、関連死への備えも万全にしておきたいものです。
■【シリーズ・災害関連死を考える】
震災と孤独死(孤立死)を考える~大震災がもたらす孤独な最期~
■出典