防災意識を育てるWEBマガジン「思則有備(しそくゆうび)」

震災と孤独死(孤立死)を考える~大震災がもたらす孤独な最期~

time 2018/07/13

震災と孤独死(孤立死)を考える~大震災がもたらす孤独な最期~

阪神・淡路大震災、東日本大震災、そして熊本地震…約20年の間に私たちを襲った3つの大地震は多くの課題を浮き彫りにしました。建物の耐震構造、人々の防災意識…そして、今回とりあげる震災による孤独死(孤立死)もそのひとつです。

ところで、一般的に「孤立死」と聞くと“重い病気を抱えた一人暮らしの高齢者が、人知れず息を引き取る”といった漠然としたイメージを持たれるかもしれません。しかしその実態をつぶさに眺めてみると、社会の変化に根差した現実がありありと見えてきます。世界有数の地震列島に暮らす私たちだからこそ避けては通れない孤立死の実態について紹介します。

「孤独死」と「孤立死」はどう違う?

どちらも似たような意味の言葉ですが、「孤独死」が“誰にも看取られずに亡くなる”という死の間際の状況を指すのに対して、「孤立死」は“社会から孤立した結果、誰にも看取られずに亡くなる”という生前の社会的孤立が招いた一人きりの死というニュアンスを含みます。

また、厚生労働省の報告書(『高齢者等が一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議』)のなかで“「孤立死」(つまり、社会から「孤立」した結果、死後、長期間放置されるような「孤立死」。)”としており、本稿もそれにならい「孤立死」として話を進めます。

震災時に孤立死に陥りやすい6つの傾向

1995年1月に発生した阪神・淡路大震災では、震災の翌年2月時点で仮設住宅での孤立死が49人に達し、孤立死が社会的な問題として大きくクローズアップされました。

ちなみに、毎日新聞が報じた震災による孤立死は2018年1月時点で累計1,000人を超えています。(※1)これらの一つひとつの「死」に対して、仮設住宅内の診療所医師として向き合ってきた伊佐秀夫氏は、孤立死に陥る人にはある共通の傾向があると指摘します。それが、次の6つです。(※2)

(1)一人暮らし
(2)食事をせずに飲酒
(3)近隣とコミュニケーションを持たない
(4)高齢や障害で日常生活の自立が困難
(5)疾病の急激な悪化
(6)慢性疾患の治療中断

病気だけでなくメンタルヘルスが原因にも

ところで、震災時の孤立死の原因は(5)(6)で指摘されているような疾病だけではありません。とりわけ深刻なのが、メンタルヘルスの悪化に伴う孤立死。仮設住宅での孤独を慰めるために、過度の飲酒に陥った中年男性が肝硬変で人知れず死亡する…といったケースも報告されています。

実際、法医学者としてあまたの死と向き合ってきた上野易弘教授(神戸大学大学院)が、震災後の1995年3月から1999年7月までの間に行った調査では、兵庫県内の仮設住宅で孤立死した253人のうち7割が男性でそのうち50、60代男性の死因の多くが過度の飲酒による肝疾患が原因だという調査結果もあるのです。(※3)

震災から20年経っても、なお続く孤立死

2017年時点でも阪神・淡路大震災の復興住宅では、孤立死が発生。神戸市では77歳の女性が死亡し、通報を受けて駆け付けた警察官によって発見されたときには死後約4カ月半経過していました。終わりの見えない震災による孤立死。県警による集計では、2017年度に発生した仮設住宅における孤立死因は、「病死」が46人、「自殺」が6人、浴槽で溺れるなどの「事故死」が5人。そのうち約8割が死後10日以内に発見されたものの、発見されるまで1カ月以上かかった人も6人いたそうです。

また、その発見者に関してももっとも身近な存在であるはずの家族による発見は約2割に過ぎず、大半が警察官や消防隊員、民生委員だったという事実からも、孤立死の差し迫った実態が浮き彫りになってきます。(※4、※5)

「ブザー配布」、「声かけ」…講じられるさまざまな対策

このように深刻さを増す孤立死に対して、仮設住宅ではどのような対策が行われているのでしょうか。

東日本大震災の被災地、岩手県や宮城県では、「ブザーを配る」「毎日玄関先に旗を掲げてもらう」といった工夫で孤立死を防ぐ心がけを行っています。一方、陸前高田市の仮設住宅では、地域の集会所で実施する「お茶飲み会」をはじめ、生活支援相談員が週に何度も住宅を訪ねて、健康状態の把握を徹底するといった活動も実施。このほかにも郵便配達員などを活用した声かけサービスも始まっています。

低年齢化する孤立死。まずは近隣とのあいさつから

近年、孤立死は震災時に限らず大きな社会問題になっています。とかく孤立死と聞くと高齢者に限った問題のように思うかもしれませんが、実は20代から50代の現役世代においても少なくありません。共通しているのは人間関係が希薄になり社会から孤立していること。こうした状態だと、万が一倒れた際に誰一人として救いの手を差し伸べることができないのです。

そこで、先に挙げた6つのチェック項目を念頭に置きつつ、見直したいのが近隣住人とのコミュニケーション。日ごろから近所の方へのあいさつを習慣にするだけでも、万が一倒れた際に、「あれ、今日はあの人がいないな、ひょっとして何かあったのかな?」と異変に気付いてもらえます。その結果、早期に発見され命をとりとめる可能性も高まるのです。

まずはあいさつから。他人事とは思わず始めてみてはいかがでしょうか。

■【シリーズ・災害関連死を考える】

災害関連死を考える|シリーズ『災害関連死を考える』序論

エコノミークラス症候群|シリーズ『災害関連死を考える』

クラッシュ症候群|シリーズ『災害関連死を考える』

震災と孤独死(孤立死)を考える~大震災がもたらす孤独な最期~

持病の悪化|シリーズ『災害関連死を考える』

註・参考文献
阪神大震災
「孤独死」昨年1年で64人 ※1
https://mainichi.jp/articles/20180111/k00/00m/040/106000c

830人の無念 被災地発 問わずにいられない (9)孤独死危険群 ※2
https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/sinsai/02/rensai/199602/0005472284.shtml

〈伝えたい―阪神から〉孤独死防ぐ「つながり」を※3
http://www.asahi.com/special/10005/OSK201104030141.html

孤独死、昨年は64人=阪神大震災の復興住宅-兵庫 ※4
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018011000828&g=soc

震災復興住宅の独居死が千人超え 2000年以降 ※5
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201801/0010886662.shtml

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