「シリーズ・災害関連死を考える」の第1回は「クラッシュ症候群」。大震災の際、運よく即死をまぬがれ、がれきの山から救助されても、結果的に死に至ることもある症状です。その仕組みと対処法を考えます。
救出時は元気だったのに、数時間後に亡くなる事例
がれきに身体が挟まれて身動きが取れなくなったものの、数時間後に救出されたある男性。大きなけがもなく、意識もはっきりしていて、無事に生還してくれたと周囲がほっとしていたら、数時間が経ってから急に容体が悪くなって、亡くなってしまった…このような事例が阪神・淡路大震災で起きました。
この事例は「クラッシュ症候群」(挫滅症候群)によるものとみられています。阪神・淡路大震災では外傷傷病者全体の13.7%にあたる372人が発症し、そのうち50人が亡くなっています。
片足を挟まれるだけで死亡することも
クラッシュ症候群は、がれきなどの重量物に2時間以上身体の一部が挟まれると発生するといわれていますが、1時間程度挟まれただけでも生じるケースもあります。筋肉の30%以上が3時間以上挟まれると死に至るともいわれています(※1)。片足全部が挟まれただけでも死亡することがあるということです。
この症候群の大きな特徴は、救出後しばらくは元気なのに、数時間経ってから急に容体が悪くなって、亡くなってしまう事例が多いということです。そのため医師の診断によっても見逃されてしまうことが多いのです。ですからクラッシュ症候群という症状とそのメカニズムについて事前に学んでおくことが大切です。
クラッシュ症候群のメカニズム
クラッシュ症候群は、かみ砕いて説明すると次のようなメカニズムによって起こります。
がれきなどによって筋肉が長時間圧迫されると、筋肉の細胞膜が傷ついて、細胞内のカリウムやミオグロビンが流出し、局所に溜まります。救助によって筋肉圧迫が解除されると、これらの高濃度の物質が血流に乗って全身を巡り、結果的に急性腎不全や高カリウム血症を発症します。これを放置すると腎不全の進行や、高カリウム血症による心室細動など致死性不整脈の発症により死に至ります。
私たちができること―救助隊を呼べる場合
大地震が起きて、がれきに挟まった人を発見した時に、私たちができることは何でしょうか。時系列で説明します。
救出時の圧迫解除により発生するクラッシュ症候群ですが、治療は救出前、つまり傷病者ががれきに挟まった状態から、できるだけ早く行うことが重要です。救急隊員を呼び、点滴などによる輸液投与を行ってもらいます。その際に私たちができることは、傷病者を毛布にくるんであげたり、励ましや声かけを行ったりして、輸液投与による体温低下をなるべく防ぐことです。
私たちができること―救助隊を呼べない場合
しかし、救急隊員がすぐ来てくれるとは限りませんし、輸液が揃っているとも限りません。そういった時は、傷病者に大量の水を飲んでもらうことが有効になります。また挟まれている部分より心臓に近い部位を幅広い布で縛ることも有効であるといわれています(※2)。例えば右足が挟まれている場合は、右足の付け根を縛ってあげるということです。
自分たちによる救出が成功した場合でも、前述のように傷病者に目立った外傷がなく、意識もはっきりしているため、搬送先の医師が発症を見逃してしまう場合があります。医師や救急隊員に、傷病者がどのくらいの時間、どのくらいの重量物に、どの部位が挟まれていたのかなどをしっかり伝えましょう。
今後の大震災でも想定される
「クラッシュ症候群」は今後発生が危惧されている大震災でも多数発生することが想定されます。長時間重量物に身体が挟まった時はかならず「クラッシュ症候群」が起こりうることを覚えておきましょう。
■【シリーズ・災害関連死を考える】
震災と孤独死(孤立死)を考える~大震災がもたらす孤独な最期~
■註・参考文献
仲西宏之・佐藤和彦『震度7の生存確率』(幻冬舎)※1
「クラッシュ症候群にならないためにできること」(ヘルスケア大学)※2
http://www.skincare-univ.com/article/034106/
「クラッシュシンドローム」(Emergency Care 2012 vol.25 no.3)
https://www2.medica.co.jp/topcontents/saigai/pdf/crash.pdf
「災害時の圧挫症候群と環境性体温異常」(日本内科学会)
http://www.naika.or.jp/saigai/kumamoto/atsuza/