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新型コロナ・パンデミックから見えてきた感染症蔓延と低頻度巨大災害 ~複合災害で想定される「備え」の複合課題~【第1回】(全3回)|高嶋三男(防災ニュースレター「Bosai Plus」編集発行人)

time 2020/06/26

新型コロナ・パンデミックから見えてきた感染症蔓延と低頻度巨大災害 ~複合災害で想定される「備え」の複合課題~【第1回】(全3回)|高嶋三男(防災ニュースレター「Bosai Plus」編集発行人)

元防災情報新聞編集長、有料ビジネス・ニュースレター「防災プラス(Bosai Plus)」編集発行人である高嶋三男(たかしま みつお)様にコロナ禍から見えてきた複合災害の「備え」についてお話しを頂きました。


新型コロナ・パンデミックから見えてきた感染症蔓延と低頻度巨大災害 :複合災害で想定される「備え」の複合課題  【第1回】(全3回)

著者:高嶋三男(防災ニュースレター「Bosai Plus」編集発行人)

 

はじめに

経営論などの寸言に「鳥の目・魚の目・虫の目・コウモリの目(を持つ)」というものがあります――鳥の目で全体を見る、魚の目で流れを見る、虫の目で細部を見る、コウモリの目で(天井にぶら下がって)視点を切り替える、というもので、多角的視点でものごとをとらえるという意味です。
そのような、行きつ戻りつの視点から、低頻度巨大災害と新型コロナウイルス感染症の複合災害、そして防災、備蓄を考えてみました――

※低頻度巨大災害 とは
発生頻度は低いが、ひとたび発生すれば甚大な被害を生じさせる自然災害のこと。東日本大震災はそうした低頻度巨大災害の典型例であり、1000年に1度と言われました。

※複合災害(複合的自然災害)とは
複数の現象がほぼ同時または時間を置いて発生することによって起こる災害。先に発生した自然災害の復旧途上で別の異なる自然災害が発生し、より大きな被害が生じることなどを言う。例えば、大地震後に被災地域に集中豪雨が降り河川が氾濫すること。

日本人は「内に災異を内包していることを意識しつつ、災異と共生する」

私たち日本人は、災害の多い国土で長く暮らしてきたことで、豊かな自然を享受すると同時に、低頻度巨大災害はもとより通常災害にも幾度となく苦しめられてきました。豊かな自然と自然災害の混在は、日本人の心に「諦観」を生むいっぽう、「災害との共生」という自然体での生き方・知恵を育むことにもなったと言われます。

そう言えば、新型コロナ禍で時事用語になった「ロックダウン」は、日本語では「封鎖」で外から(管理する側が)ロックする印象が強いのですが、英語の原義では“内側から鍵をかける”、つまり都市のロックダウンと言う場合は「外からの侵入を防ぐ」という意味だそうです。

西洋文明は歴史的に、自然の中に「壁」(砦)を築き、壁の内側に生活の場(都市)をつくってきて、その壁を破ろうという外敵、あるいはまさに疫病など未知なる恐怖が襲ってきたときに「ロックダウン」するのだと聞きました。

いっぽう東洋文明は、自然との共存を図って生きてきた――豊かな自然に恵まれながらも、幾多の災害や飢饉、疫病の歴史を生きてきた私たち日本人は、「内側」にすでにそうした「災異」を内包しており、今回の感染症流行への対応についても、善かれ悪しかれパニックに陥らない、あるいは“鈍感”だという見方があります。新型コロナの今後の展開には依然として予断は許されませんが、日本人は「内に災異を内包していることを意識しつつ、共生」しようとしているのかもしれません。

リアリティチェック  「災害の常襲化」は否定できない

ここ数年、わが国は毎年、大規模な風水害に見舞われています。まさに温暖化、気候変動を背景に、かつては数十年に一度と言われた大災害が常態化してきました。災害教訓が風化する間もない近年の風水害事例を以下、リマインド(再確認)しておきます――

▼2019年
9月の台風15号(気象庁命名「房総半島台風」:千葉県で住宅被害7万棟など)。
10月の台風19号(気象庁命名「令和元年東日本台風」:関東、甲信、東北地方などで記録的な大雨)。
 同21号:千葉県で大雨、河川氾濫・浸水・土砂災害
▼2018年
7月豪雨(西日本豪雨):西日本一帯、とくに広島県、岡山県(倉敷市など)に甚大な被害
▼2017年
7月九州北部豪雨:福岡県(朝倉市など)、大分県で被害
▼2016年
台風7号・11号・9号・10号連続来襲(グループホーム被災など)
▼2015年
9月関東・東北豪雨(鬼怒川水害など)
▼2014年
8月豪雨(広島土砂災害など)
▼2013年
10月台風26号による暴風・大雨(東京都大島町土砂災害など)

――読者には、あれからまだ10年も経っていないのか! と記憶をあらためていただいたことと思います。

2019年 台風19号(Credit:福島県須賀川市WEB) 2017年 九州北部豪雨(Credit:国土交通省 九州地方整備局)

 

いっぽう、このところ緊急地震速報(警報)が頻繁に、何度か鳴り響き、震度4程度の地震が各地で起こっています。テレビでの地震速報も、またかというくらい日常的に伝えられることも気になります。

緊急地震速報の発表状況について言えば、直近では6月25日(04:47)に「千葉県東方沖」(マグニチュード(M)6.2)、5月19日(13:12)に「岐阜県飛騨地方」(M5.4)、5月11日(08:58)に「茨城県沖」(M5.5)、5月6日(01:57)に「千葉県北西部」(M5.0)、5月4日(22:07)「千葉県北東部」(M5.6)といった具合でした。

さらに遡れば、4月23日(13:44)「長野県中部」(M5.5)、4月20日(05:39)「宮城県沖」(M6.2)、3月13日(02:18)「石川県能登地方」(M5.5)の地震で発表。これらのうち観測最大震度は最大5強(3月13日「石川県能登地方」)、次いで5弱(6月25日「千葉県東方沖」)、ほかは震度4以下で、いずれも幸い大きな被害はなかったようですが、いずれも新型コロナウイルス感染症が蔓延するなかでの発表でした。

>>気象庁:緊急地震速報(警報)発表状況 : https://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/pub_hist/index.html

2020年に入ってからは1月3日に「千葉県東方沖」、2月1日に「茨城県南部」を震源とする地震で緊急地震速報が発表されていますから、ここまで(6月4日現在)9回になります。2019年は通年で8回、北海道胆振東部地震や大阪北部地震が起こった2018年は(両地震を含めて)18回発表されているので、本年はほぼ5カ月ですでに2019年分の速報が発表されたことになります。

ちなみに、2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震/M9.0)後に起こって気象庁が地震名を命名した、あるいは社会的影響の大きかった被害地震は、2016年熊本地震(M7.3)、2018年大阪北部地震(M6.1)、同年北海道胆振東部地震(M6.7)と、このところ2年ごとに起こっていることも気になるところです(2020年あたり大地震が起こりそう?)。

これから本格的な出水期、集中豪雨・台風の季節を迎えることは言うまでもありませんが、いつでも大地震が起こり得るわが国で、新型コロナウイルス感染症への警戒のさなか、「最悪想定」に備えることは喫緊の課題で、行政はいま、感染症蔓延下での避難所運営マニュアル作成、体制整備を急いでいます。

2016年 熊本地震(Credit:国土交通省 九州地方整備局) 2018年 北海道胆振東部地震(Credit:国土交通省)

 

わが国の直近の100年に「大災害が頻発」という事実

「低頻度巨大災害」という防災用語があります。発生頻度は低いが、ひとたび発生すれば甚大な被害を生じさせる自然災害を言います。東日本大震災はそうした低頻度巨大災害の典型例であり、1000年に1度と言われました。

近年記憶に新しい大災害(日本が被災地になったものではありませんが)に、2004年(12月)インドネシアのスマトラ島沖で発生した地震津波(名称はインド洋地震津波、あるいはスマトラ島沖地震津波)があります。犠牲者約23万人という世界の災害史上最悪の津波被害をもたらしたこの巨大災害は、地震規模もM9 .1と世界最大級で、震源域はスマトラ島沖からインド領のニコバル・アンダマン諸島へ全長1000km以上に及び、日本で言えば東日本、あるいは西日本全域が震源域になったような規模でした。

先ごろ発生から60年を迎えて記憶を新たにした「チリ地震津波」は、1960年に南米・チリで起こった歴代世界最大とされるM9.5の地震でした。震源域は長さ約1000km・幅200kmの領域に及び、「遠地津波」が日本も襲って大きな被害が出たことで知られます。

2011年 東日本大震災後の南三陸町
(Credit:Hiroya Hirai/SEISHOP.jp)
2004年 インド洋地震津波後のスマトラ島の港町
(Credit: Philip A. McDaniel/U.S.Navy)

 

低頻度巨大災害については、東日本大震災が起こるまでは「飛行機が家に落ちることまで心配できない」といった例えであまり重要視されませんでした。しかし、わが国では、自然災害の歴史からみればそう遠くない過去――先の大戦中・終戦直後を含めて1959年伊勢湾台風までは、死者1000人以上の大災害は何度も起こっているのです。以下、その事例です(元号も付します。カッコ内は死者・不明者数)。

1943(昭和18)年鳥取地震(1083人)、1944(昭和19)年昭和東南海地震(1223人)、終戦直前の1945(昭和20)年1月の三河地震(2306人)、1946(昭和21)年南海地震(1443人)――この4地震は、日本が太平洋戦争の渦中と終戦直後に4年連続で死者1000人以上を出すという異例の連続大地震でしたが、戦時中の被害情報は軍部によって伏せられるという悲劇も生みました。

終戦直後からは気象災害も加わり、1945(昭和20)年枕崎台風(3756人)、1947(昭和22)年カスリーン台風(1930人)、1948(昭和23)年福井地震(3769人)、1953(昭和28)年南紀豪雨(1124人)、1954(昭和29)年洞爺丸台風(1761人)、1958(昭和33)年狩野川台風(1269人)そして1959(昭和34)年伊勢湾台風(5098人)に至るのです。

1947年 カスリーン台風(Credit:国土交通省 九州地方整備局) 1959年 伊勢湾台風(Credit:国土交通省 関東地方整備局)

 

こうしたわずか80~60余年前までの大災害の時代を背景に、現代史におけるわが国の災害対策の本格化は1959年伊勢湾台風を契機として策定された災害対策基本法(以下「災対法」。1961(昭和36)年)に始まります。

伊勢湾台風後、言い換えれば災対法の策定後、わが国はなぜか、30数年に及ぶ大規模災害の静穏期に”パタリ”と入ります。単発での地震や“通常災害”としての風水害は起こったものの、死者数百、数千人といった激甚な災害は、地震、風水害ともに、起こらなかったのです。

もちろん、災対法を機に防災体制の整備・強化、国土保全の推進、気象予報の向上、災害情報の伝達手段の充実などを通じた災害対応能力の向上もありました。また、災害対策による脆弱性軽減への努力などもあって、自然災害による大規模被害自体は減少していたのですが……それにしてもなぜか、まさに”パタリ”と静穏期に入ったのです。

「低頻度巨大災害」とはなにか 災害事象が想定を超えるとき

しかし、1995年阪神・淡路大震災が勃発、35年ほど続いたわが国の災害静穏期の眠りを覚醒させました。現代都市を巨大地震が襲い6千人を超える犠牲者を出すという大災害に、わが国の災害対策は改めて大変革を迫られたのです。家屋倒壊が死因の最大原因となり、建物・構造物の耐震安全性の神話は崩れ、耐震改修促進法の制定、既存不適格家屋の耐震診断や耐震補強が進められることになりました。

また、地震予知の限界が指摘され、地震が起こっても被害を減らそうという防災への関心が高まるいっぽう、地震防災対策特別措置法が制定され、地震調査推進本部(地震本部)が発足、全国地震動予測地図などが作成されるとともに、国の危機管理体制も抜本的に見直されることになりました。

1995年 阪神・淡路大震災(Credit:防衛省)

 
国の地震本部は、地震発生の長期予測の研究を始めました。長期評価(予測)では「地震発生確率30年以内」で何パーセントと表現されますが、30年という期間は、情報の受け手(国民)にとって人生設計を検討する際の目安になる長さだからだそうです。まさに伊勢湾台風後の静穏期の30年間で、国民の災害リスク認識の風化が起こっていたのかもしれません。

そのいっぽう、災害対策に地震の長期評価による被害想定を取り込みましたが、それは結果的に、自ら設定した危機管理の限界を縛る安全神話(自己矛盾・思考停止)に陥らせる要因ともなりました。

阪神・淡路大震災から16年を経て、2011年東日本大震災が起こりました。それまでの想定をことごとく一蹴する規模での「東北地方太平洋沖地震」の発生です――福島第1原発事故は、その安全神話の崩壊の象徴・反面教師となりました。参考まで、東日本大震災での身近な安全神話の崩壊の象徴的な画像を示しておきます。

津波避難標識:「津波浸水想定区域」として“ここまで”と明記された標識――その足元に、津波で流された家屋が漂着して標識にぶつかって留まった。この1枚の写真が、私たちの「想定の限界」を象徴的に指弾している。命を守る防災の想定=想像力は、“ここまで”であってはならなかった
(写真:NHKテレビより。3月20日撮影とある)

 

>続き(第2回)「もしやいま、「世界終末時計」が振り切れようとしていないか?」を読む<

【著者Profile】


高嶋三男(たかしま みつお)
(防災ニュースレター「Bosai Plus」 編集発行人)
「Bosai Plus」は2010年9月1日・防災の日の創刊、月2回(1日・15日)発行・配信のニュースレター(PDF A4判・8ページ建て)。各号は災害・防災にかかわる情報と分析・解説情報などを掲載。元防災情報新聞編集長、現WEB防災情報新聞特別編集員、国立研究開発法人防災科学技術研究所 客員研究員。
防災ニュースレター「Bosai Plus」:http://www016.upp.so-net.ne.jp/bosai-plus/

【第2回】新型コロナ・パンデミックから見えてきた感染症蔓延と低頻度巨大災害 ~複合災害で想定される「備え」の複合課題~|高嶋三男(防災ニュースレター「Bosai Plus」編集発行人)

【第3回】新型コロナ・パンデミックから見えてきた感染症蔓延と低頻度巨大災害 ~複合災害で想定される「備え」の複合課題~|高嶋三男(防災ニュースレター「Bosai Plus」編集発行人)

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