サプリを飲んでいる人は多いと思います。テレビ通販、ドラッグストアやスーパー、ネットショップ…たいへん多くのサプリメントを目にしますが、どれが今の自分に有効なのか? どんな原料からどんな風に作られているのか? 本当に効果はあるのか? 値段が高いサプリの方が効き目はあるのか?…多くの人たちが、よくわからないまま、会社名ブランド名・値段や書かれている効能をみて、なんとなく購入しています。
そこで、東洋経済オンラインの連載でも知られる医療機関専用サプリメント専門メーカー「株式会社ヘルシーパス」の田村社長と企画開発担当・井村取締役にご登壇いただき、今さら聞けない(聞くのもちょっとこわい)サプリメントについての基礎知識を解説いただきました。
(講演日:2022年4月22日 19:00-20:30 / 主催:麹町アカデミア×SEISHOP / 場所:SEISHOP(市ヶ谷ショールーム))
サプリメントの正体
“サプリメントの正体”と
医療機関専門サプリメントメーカーの創業秘話
井村聡介(ヘルシーパス企画開発担当取締役)
ヘルシーパス社の紹介
ヘルシーパスは、医療機関専用のサプリメントメーカーです。2021年10月で創業から15年周年となりました。
ヘルシーパス社には変わったところが二つありまして、一つ目は株主構成です。
株主の中心はお医者さんたち(医者・薬剤師・愛用者)なのです。株式会社というものは社長よりも株主さんが偉いものですから、いいものを作らないと株主総会で大変な目に遭うため、緊張感を持って仕事をするということになります。
二つ目は、お客様の構成です。
お客様は、お医者さんと歯医者さんだけで、一般の人たちにはサプリメントをお届けしない、という仕事をさせていただいております。
ヘルシーパス社 創業の話
田村:私は社会人のスタートはリクルートで、入社して3カ月後にリクルート事件が起きました。今から思うと得難い経験をさせていただきました。10年間リクルートで働き、その後、静岡県西部の袋井市にある食品会社・日研フードに転職いたしました。その会社では、未来事業部という新規事業部をつくっていただいてリーダーになりました。事業部のテーマは老化制御というものでした。
その未来事業部に井村君が新入社員として入ってきました。あまり利益を生んでいなかったので、人事から「今年は新人は要りますか」と言われ「うちは要らないよ」と答えていたのです。
井村:現場見学というのがあり、工場の現場等で研修をして一通り回ったのですが、未来事業部が圧倒的に面白そうでした。当時、4つか5つぐらいのテーマがあり、有機の野菜やオーガニックのビーフ、粉末のお茶、お魚(未使用の水産物)もありました。もともと水産学部だったものですから魚に興味があったということと、当時働いている方たちが特徴的な方ばかりで、とても楽しそうに仕事をされているのを見て、ここしかないなというのを正直思いました。
井村取締役(左)と田村社長(右)
田村:確か、井村さんはオーナーの家に手紙を出した。
井村:そうでしたっけ。
田村:人事には「新人は要りません」と言っていたのに、彼はどうしても入りたくて、オーナーに直接手紙を出していました。創業社長ってそういう子が好きじゃないですか。私にオーナーから直接電話がかかってきて「なんかイキの良い奴が来ているな」と言われ、「堅いことを言わずに入れてやれ」、「御意」と、それで井村さんが合流しました。
あの手紙がなかったらヘルシーパスに彼はいないし。多分、ヘルシーパスは立ち上がっていなかったかもしれません。
その時、手紙を受け取った日研フードのオーナー(越智宏倫 会長)が抗加齢医学で様々な研究をしていました。「8-OHdG」、ドクターはお分かりになると思うのですけれど、遺伝子がどれぐらいのスピードで酸化し、壊れているかというのを見るマーカーです。これを実用化したのが越智会長です。平成12年に科学技術庁長官賞を取っています。
越智会長の下で、「8-OHdG」を使って本当に体の酸化を止められるサプリメントというのを開発・販売するサプリメントメーカーを立ち上げました。
私はそのサプリメントメーカーの代表取締役を務めていたのですが、オーナーが急に亡くなられて、会社を清算することになり、代表取締役から代表清算人になりました。清算というのは資産を全部現金に換えて株主にまず返して畳んじゃうということなのですけれど、実際に清算人なることはなかなかないです。2カ月間ぐらい取引先やお客さまにお詫び行脚をしたら「いやいや困るんだけど…」とお医者様に言われました。そのサプリメントがなくなると診療に差し支えるので、会社を清算しないでくれ、お金を集めるからそれを資本金にしてもう一回始めてくれ…と言われるのです。そのドクターが、自分が全部集めちゃうと君の発言権がなくなるから、知り合いにも声をかけるのでやってご覧よ、ということで、やってみたら2人の合計で6,700万円集まっちゃったのです。わずか1週間でです。
本当は、元の会社にいても、それなりに安定したポジションがあったので、3日間悩むわけです。9月の最後の3連休でした、井村君に「この状況、どうしよう?」と相談したら、
井村:辞めましょうよ―――。
田村:上司を辞めさせる部下。
井村:当時、なんとなく閉塞感というのがあり、新しく始めたほうが楽しそうだし、やりたいことができそうだなと漠然と思っていたんですね。私も当時はまだ27歳で子どもも生まれたばかり、今、思うとよく決断したなと思います。ですが、正直、全く不安がなくて、田村さんと一緒にやったらうまくいくだろうな、と思っていました。
田村:サプリメントの会社で、当時からサプリメントの設計や製造は彼が管理していたので、立ち上げるとしたら、この人もいないと駄目だなと思っていました。
こうして、ヘルシーパスを創業した訳です。最初は自宅の6畳間ですからキツキツです。営業に行くときは、井村君の目の前でスーツに着替えるのです。
井村:猫もいました。
田村:猫を2匹飼っていたので、私がいない時は“社長室長”と呼ばれる猫が私の椅子に座っていました。
経理的なことや資料を発送することやサプリメントの発送等は、それぞれの配偶者がやっておりました。最初は注文のない日も多いから、ヤマトさんに、「すいません。今日はないんです」と言うのが寂しくて…。
井村:懐かしいですね。
サプリメントの正体
ほとんどのお医者さんは残念ながらサプリメントが自分に関係あるとは思っておりません。
そういう先生のためにお話しする時のスライドがこちらです。
サプリメントが有効な領域
医療機関には病気の方や体調不良の方が来られます。多くの場合、医薬品や手術が施されます。これで元気になる人もいますが、元気にならない人が残ります。そういう方には、例えば運動してもらう必要があったり、食生活を改善することが必要な方もおられます。
ですから、どこのお医者さんもいいものを食べてねということは患者さんに言っています。しかし、ほとんどの患者さんは実行できません、そもそも具合が悪い人はお買い物に行ったり料理ができないからです。
例えば、歯医者さんだったら、お口の中に歯が残っていない、歯が痛いという人は、食材をかめないので栄養のあるものを取れません。ですから、食生活の改善は案外難しく、医療現場では、この部分を効率化するためにサプリメントを使うのですという話をするとご理解をいただける事が多いです。
特に患者さんから、「サプリメントっていつまで飲めばいいんですか?」とよく聞かれますが、私の答えは明確です。元気になったら卒業です。
それでは、サプリメントにはそんなに登場の場面があるのかと言われるのですが、これがありまくるのです。
日本人の栄養状態は良くない
日本人の栄養状態というのは良くないという現実があります。もっと正確に言うと悪いです。これは厚労省が出している2つのデータをまとめたグラフなのですが。
日本人の栄養状態の現実
1つ目は日本人の食事摂取基準。これだけの量は栄養を取っていてくださいねというものです。もう一つはどれだけ栄養を取っているの?という調査。これを重ね合わせました。
100のこの赤い線、ここはこれだけ栄養を取っていてほしいねというライン。この棒グラフはどれだけ栄養をちゃんと取っているかというグラフです。赤い棒は基準まで届いていない栄養素です。
日本人は男女とも年代ごとにみんな栄養状態が良くないのですけれど、特に悪いのは20代女子です。
80%以下の栄養素に赤い矢印を付けています。
まず炭水化物、おそらく、みんなダイエットをしています。糖質制限等です。でも、ここには落とし穴があって、日本人は食物繊維の多くをお米から取っているので、糖質制限をすると食物繊維が不足に陥るのです。すると、腸内環境が悪化するから結局痩せないですね。
それから、ビタミンA、誰でもお肌はきれいになりたいですよね。不足すると、お肌ががさがさになります。病気にもなりやすいです。
それから、ビタミンD、女性はUVケアを一生懸命するので、紫外線に当たらない。すると体内でビタミンDができません。したがって、更年期以降の骨密度がとても心配だし、実はビタミンDって免疫力を支えています。
感染症、怖いと思うのですけれど、予防のためにはビタミンDを取るのが安価で確実。ですが、このように欠乏状態ですと心配ですね。しばらく前の新聞記事にありましたけれど、実はお医者さんの9割はビタミンD不足だそうです(BMJ Nutr Prev Health(2022; e000364))。医療の最前線の方が防弾チョッキなしで頑張っているということです。
それから、ビタミンB1。これは糖質をエネルギーに変えるために必要なビタミンですけれど、これが不足ということは糖質を取ってもエネルギーにならないので、ダイエットで糖質を削減していても、余った糖質が身についていくのでダイエットにならないですね。
それから、ビタミンB2。これは脂肪を燃焼するのに必要なのですけれど、これが不足ということは体脂肪が落ちません。
それから、ビタミンC。一般的に女性の方ってコラーゲン大好きですけれど、コラーゲンは自分で作るのです。その際に大事なのがビタミンCと鉄なのです。ビタミンCを取らないとコラーゲンもできません。きれいになりたいのにマイナスですよね。
それから、カルシウム。これが足りないと、骨量、骨密度がありませんから怖いです。
マグネシウムも一緒で、骨になります。マグネシウムは、これもいろいろなところでエネルギーを生むのに働いているミネラルなので、これが不足すると痩せません。
最後に鉄。鉄も足りないでしょう? 鉄は、皆さん、赤血球の原料になって酸素を運んでいると思っていますが、それは確かにそうなのですが、さきほど話したようにコラーゲンを作るのにも鉄が働いているので、キレイになれない。それから、いろいろなところでエネルギー生産にかかわっているから元気も出ませんし、頭も回りません。
さらに脳の中で様々な神経伝達物質を作るところに鉄が関わっているので、気分の差が激しくなったりしますし、鉄が足りないと、女子力が落ちてしまいます。この表を見ていると、このような栄養状態の女性は魅力的じゃないかもしれないという想像をしてしまいます。これが平均的な20~29歳の日本人女性の栄養状態なのです。
さらに言うと、この後、妊娠や出産が控えているかもしれません。すると心配なのが、お母さんの栄養状態が赤ちゃんにまで影響する可能性です。鉄の足りない人って本当に日本人には多いのです。
注意喚起のために並べますけど、鉄が足りないとこういう様々な症状が出てきます。女子が集まっているところで「これに一個でも当てはまる人は手を挙げて」と言うと8割、手が挙がります。鉄が足りない人だらけです。
鉄不足によって、起こりえる症状
それぞれの症状に対応する診療科があるので、症状別のお医者さんのところに行ってしまいますが、本当に鉄不足だと薬では治らないです。鉄を取ることが唯一の根本治療だからです。そういうことを知らないとドクターショッピングが始まってしまいます。
非常にかわいそうなことになっている女子が多いので、特に閉経前の女性は、自分の健康状態が思わしくないときには、鉄が足らないかもしれないと考えると良いと思います。
鉄不足に対応するのは簡単です。レバーを食べてください、レバーが食べられなくても腕のいい焼き鳥屋さんの作るレバ串なら食べられるのではないでしょうか。そういう食べやすいレバーを探して召し上がるといいと思います。
どうして日本人の栄養状態は悪いのか?
こんなふうに日本人は栄養状態が悪くなっているのには、様々な原因があると思うのですけれど、最大の原因は自分で料理しなくなっているということにあります。
20世紀の日本人は自分で食材を買ってきて料理していました。21世紀の日本人は他の人が料理したものを食べていますね。すると、栄養的には非常にプアなものを食べることになってしまいます。
このことを問題提起した本がありまして、絶版なのですが、『食事でかかる新型栄養失調』(2010/12/17 小若 順一 (著), 国光美佳 (著), その他。)―――。
コンビニのお弁当や持ち帰りのお弁当屋さん、手頃なお値段のチェーンのレストランなどで、著者のチームがご飯を買い集めて、本当の栄養状態はどうなのかということを食品分析にかけて実名で公表してまとめた本なのです。業界大激震になったというすごい本です。
本によると、どんなに探してもまともな食べ物がみつかりません。
著者のチームは最後には厚生労働省職員食堂まで行きます。そこで食べ物を買ってきて食品分析にかけたら、食事バランスガイドを発表している厚生労働省のお役人の皆さんもいいものを食べていなかった、ということが書かれています。
栄養不足や添加物が危ないという前に栄養が入っていないという事を明らかにした本ですね。
まとめると、便利な加工食品や安い外食には微量栄養素が不足しています。さらに、添加物、これは色目を良くしたり口当たりを良くするためにリン酸化合物をたくさん使用するのですけれど、リン酸化合物はミネラルの吸収を邪魔します。さらに味付けが濃いのは、飲み物を買ってほしいからだと思います。
私たちが安くて簡単に食べられ見かけがきれいで腐らないものを求めてきた結果、一番大事な栄養という部分が欠けた食生活を送ってしまっています。
ですから、栄養不足で具合の悪い患者さんがごろごろ存在するわけですね。
現実の食生活
人間って炭水化物とタンパク質と脂質とビタミンとミネラルのバランスが取れていると元気に暮らせるのですけれど、加工食品ばかりを食べているから、こんなふうにバランスが崩れてしまいます。バランスを取り直すためにいいものを食べましょうねというのが王道なのですが、具合の悪い人にそれを強いると言うのも難しいです。そこで、ビタミンやミネラルが多めに含まれた食べ物を食べてバランスを取り直しましょうというのが本当のサプリメントの考え方です。
ですから、「この(特殊な)成分はどうでしょうか」とよくご質問をいただきますが、そのような特別な成分は、お金に余裕があったら買ってもいいですけれど、優先順位が違うのです。
栄養の優先順位
表の下から順番に大事なのですが、まずは空気。空気がないと3分で死にます。そして水がないと3日で死にます。
次は3大栄養素。炭水化物、タンパク質、脂質。そして、ビタミン、ミネラル。ここまでに例外はありません。足りないと死ぬのです。だから、まずここを充足しないとその後の話はありません。
期待の新素材や機能性表示食品等があります。ちゃんと研究がなされて効果がありそうだということを実証していますから買ってもいいのですが、車で例えるとカーステレオはなくても走れますが、パンクしていると走れないわけです。バッテリーが上がっていては走れません。カーステレオやタイヤやエンジンやバッテリーは絶対必要ですが、この機能性表示食品はカーステレオやカーナビといったレベルのものです。明らかに優先順位が違います。
ビタミンCを取らないと2週間で壊血病になって死にます。三大栄養素やビタミン&ミネラルと機能性表示食品は、必要性が違いますので、優先順位を間違わないでいただきたいと思います。お金に余裕がありましたら、機能性表示食品の方を買ってもO.K.です。
このようなお話をしていましたら、お取引先医療機関数が増えまして、2020年の段階で数千クリニックでご利用をいただいております。
さて、お取引先医療機関の先生方も同意いただいておりますが、世の中には怪しいサプリメントが多すぎる訳です。
サプリメントに詳しいドクターは皆さん仰いますが、安物のサプリメントを熱心に取っている人ほど具合が悪いそうです。実は当たり前です。だって、そのようなサプリメントは添加物の塊ですから。
さきほどのアンケート結果で、本日お見えの76%の方がサプリメントを飲んでいると答えていましたけれど、ああ、皆さん、有効成分とサプリメントを同一視していないかと心配しています。
栄養素や有用成分というのは有機分子や元素のお話ですが、サプリメントは工業製品なのです。○○○○という栄養素が病気に対して有効という研究があっても、それを含むと括弧で標榜している(微妙な言い回しで、そもそも入っていない製品もあります)サプリメントが必ずしも有用であるとは限りません。工業製品ですからその製品自体の信頼性をどのようにして確かめるのかという事が重要になってきます。
ですから、2013年9月発売で『サプリメントの正体』という本を出しましたところ。AMAZONにとても良いレビューがありまして、
私はサプリメントを作る工場に勤めていました。この本に書いてあることは本当です。さまざまな添加物を入れました。さまざまな添加物をこうやって無理やり作ります。取引先の製造指示書に書かれていなくても入れたことがあります。不健康食品です。作っている人が購入したいと思いません
と書いてあります。
これがサプリメントの正体です。本日の結論みたいなレビューですが、サプリメントなんか買わないほうがいいです、ということです。
サプリメントを勧めない10の理由
この本がヒットしまして、ある日、出版社さんから、「田村さん、読者のはがきが編集室に山積みになっています」、「続編を書け」と、「これを無視するんですか」と言われて2015年8月28日に『「これ」を食べればサプリはいらない』との続編を書きました。
サプリメントメーカーの社長なのにこの書名と表紙はどうかと抵抗しましたが、著者には書名と表紙デザインを決める権限がありませんので、「編集会議で決まりましたので、これで」と言われてこうなりました。
この本の最初の1章はサプリを勧めない10の理由なのですが、サプリメントの社長にこれを書かせるのかと…。
まず第1個目は、サプリメントは添加物のほうが多いくらいだから、お金を払ってまで何故添加物の塊を買うのか? です。
2つ目は、不誠実なメーカーが多過ぎるから。
栄養的にプアな加工食品を食べていることが栄養不足の原因だと申しましたが、その加工食品メーカーがサプリメントを出している場合、マッチポンプになりませんか。という事です。
3つ目は、原料が信頼できない。
同じビタミンCにも様々な工場産があります。当然に、品質も値段もばらばらです。どこまで追求して作っているのかが分かりません。
4つ目は、ありがちなのですけれど、サプリメントを買う方は自分のお悩みにマッチしそうな製品を店頭ポップや広告を見て買います。それで解決しない場合(大体、効かないのですけれど)その製品を飲み続けながら、もっといい製品を求めてよく似た製品を重ね飲みします。すると過剰摂取をしてしまうことが多いので、あまり良くありません。
5つ目は、そもそも自分に合うサプリメントを選ぶのは難しいです。タレントの方がブログ等に書いている製品を、仮にその方によく効いたとしてもその方の症状とあなたの症状が同じであると誰が確かめているのでしょうか。単に憧れのタレントさんが飲んでいるから飲もうというのは危ないです。
6つ目は、これも良くありますが食生活が乱れます。サプリメントを買ったことで安心し、運動不足と食生活の乱れが放置されてしまいます。サプリメントは緊急脱出用の手段ですからそれに頼っちゃいけません。
7つ目は、天然のサプリメントがいいと思っておられますが、その原料にアレルギーを持っているかもしれません。それなのに原料を濃縮して作った天然サプリメントを毎日飲み続けるというのは危なくないでしょうか。あまりお勧めできません。
8つ目は、サプリメントで摂取するのが不適当な栄養素があります。ビタミンとかミネラルだとミリグラム単位だから小さな錠剤で済みますが、タンパク質や脂質だとグラム単位になります。そういう栄養素は大きな粒になりますから、サプリメントではなくて食生活のチューニングをするのが正解です。
9つ目は、真面目な農業をしている方や食品メーカーさんを育てていきたいです。サプリメントで安心するのではなく、加工食品の裏を見て、きちんと作っている製品を見分けて、そのような会社を応援してほしいと思います。皆さんが物を買うという行為はメーカーに対する投票行動です。サプリメントにお金を払うより、そのような食品メーカーにお金を払ってあげてください。そっちのほうが大事です。
最後10個目、本当に必要なものが選ばれにくい世の中だから。世の中には、自社の商品が良いモノではないと分かっていて、確信犯的にマーケティングに知恵とお金をつぎ込んだ製品があります。 皆さんの目につきやすい商品は、マーケティングの結果ですから。もしかしたら、原価よりも広告予算のほうがたくさん使われている製品かもしれません。そのような製品は、飲まないほうがいいです。
真面目な会社はどうなるかというと、使ってもらえばきっと分かるはずだからと言って、広告やマーケティングがおろそかになり、いいモノを作る段階で力尽きてしまいます。
ですから、良い製品は、自分でしっかり選んでいただきたいと思うのです。
さて、どのくらい不誠実かということを、お見せします。
健康食品の現実
東京都が毎年大体3月の末に公表していますが、サプリメントを試しに買って試験しています。
最新のデータでは、リアルなお店(販売店)でサプリメントを買った結果、46品目中24品目に問題がありました。半分ぐらいが駄目ということですね。インターネットでの購入はもっとひどいです。80品目中78品目に問題がありました。インターネットでサプリメントを買うのはやめておこうという教訓がここから得られます。
それから、こちらは3年前ですけれど、国民生活センターさんもとてもいい試買調査をしてくださっています。
2019年8月の国民生活センター報道資料より
サプリメントを試しに買って人工胃液を作って溶けるかなという実験をしたのですが、その結果 何と4割が溶けなかった。4割のサプリメントは、おなかの中に入っても溶けない。
表示を見れば、品質が見抜ける?
ということで、今日の最後の山場ですが、変な製品につかまらないために、パッケージをしっかり読もうというお話をいたします。パッケージの裏を見ると様々なことが読み取れます。まず、大事なのは表のかっこいいデザインじゃなくて、裏のこまごまとしたところを見るということです。ここが大事です。「食べるものなんだからちゃんと読もうよ、ここ」ということですね。
配合量の確認と、比較
1:栄養素の種類と配合量
まず、配合量の確認と比較です。サプリメントというのは、栄養素や表示基準値という基準がありまして、サプリメントとしてはこれだけ入れていれば性能は十分だという基準です。ですから、通常、サプリメントを作るときにはこの基準に沿って作られます。
コンビニ等で普通に売られているマルチビタミンを参考にしています。ビタミンB1を見ると(白表)、表示基準値が1.2mgですから、このメーカーではもう少し入れておこう(2.2mg)と作っています。元気な方がその状況を維持するのに十分な量が基準値ですので、サプリで取らず食べ物で取れるとは思います。
一方で、栄養不足で具合が悪くなった方を助けてあげるためにビタミン剤とミネラル剤という医薬品があります。そういうものの設計は、どうなっているかというと、こういう配合量(青表)です。全く量が違うという事が分かっていただけますね。ですから、サプリの基準値は元気な人が飲んでください。具合が悪くなった人はこの医薬品のレベルじゃないと元に戻れませんということです。どんな人が飲むかによってサプリメントの求められる配合量というのは違うということです。
2:何が多く入っているかです。
食品表示法という法律で原材料名には書き方が決められています。最初に、食品添加物以外の原材料、つまり食べ物ということですが、食べ物をたくさん使った順番に記します、その後、添加物をたくさん使った順番に並べます。ですから、サプリメントを買うときには原材料の部分を見て順番を確認すれば、何が多い食べ物かが分かります。ただし、法律の言う食品添加物と私達の常識の添加物にはずれがあるので、ある程度の知識が必要になります。
裏を見ると…。こんな「どら焼き」もある
例えば、このどら焼きですが、皆さん、小豆とか小麦でできていると思っていますよね。裏を見ると確かめられますが、原材料表示を見ると、砂糖が一番多いのが分かります。同じ どら焼きでも、こんな老舗のどら焼きは、小豆、鶏卵、小麦粉の順番で、砂糖はこんなに後ろです。ここにスラッシュが入っているので、この前が食べ物でこの後ろが添加物です。
某サプリメントの裏面
これは100円ショップで買ったサプリメントなのですが、裏を見ると麦芽糖と乳糖がある。糖分の塊です。ここを見ると1袋10gと書いてあるでしょう、ですから炭水化物は砂糖の9.4g。ほとんど炭水化物です。だから、安価なサプリメントを買うのは控えた方が良いです。砂糖の塊を買うことになりますから。
3:次に、原料は天然か合成か。
裏の表示方法を見れば分かります。ビタミンB1を入れた時に原材料表示にVB1やビタミンB1と書いてあったら合成を使っているということです。天然物だと酵母(ビタミンB1を含む)とかビタミンE含有大豆油等の食べ物の名前が並びます。
サプリメントのほとんどが合成ですから、合成が駄目と言うつもりはありません。合成であれば今度は値段に注目します。もしも、安価なら購入をやめてください。それは安価な工場で製造されたため、原料に信頼がおけないので。
では、どのぐらいの値段だったらいいのかというと、比較の対象は、薬剤師さんがいないと売ってくれないビタミン剤、第2類、第3類医薬品という製品です。あの値段と比較してどうかというのを見れば、医薬品ですから、信頼性の高い原料がどのぐらいの価格かを判断する基準になります。
ここまででもかなり詳しい人になれます。
それでは実際のサプリメントで確認しましょう。
実際のサプリメントで確認①
これは当社のマルチビタミンですけれど、パッケージを見るとここにスラッシュがありますでしょう?この前は酵母の塊だということが分かります。ビタミンB2含有酵母。このドロマイトというサンゴの化石だけ違います。あと、残念なのはビタミンCとかステアリン酸カルシウム、イノシトール等はスラッシュの後ろにあります。私たちは栄養のつもりで入れているのですけれど、成分上は添加物に入れないといけないからこういう表示になってしまいます。
基本的に栄養成分だけれど添加物に分類されるものがあり、合成の原料は原材料表示ではスラッシュの後に登場するという事を皆さんに知っていていただければと思います。一方で、わざと合成で作ったサプリメントもあります。食品原料だとその原料にアレルギーを持っている人がいるので、アレルギー体質の人でも飲めるように合成のビタミンとミネラルで作った製品もあります。
実際のサプリメントで確認②
これは先ほどの製品とほとんど同じ設計なのですが、裏の原材料表示はがらっと変わります。スラッシュはここですから、食べ物はサンゴの化石のみで、あとはみんな添加物と表示されます。ですが、ちゃんと作っているので値段を見ていただくと、一月分5,000円します、それなりにちゃんとした原料を使っているのだなということを先生たちには信頼していただいています。
4:添加物はどれくらい入っているか?
ここまででかなり詳しくなっていますが、さらに駄目押しで、表示から添加物がどのくらい入っているのかと言う事も分かります。合成の原料を使っているサプリメントが大半だから、原料に占める栄養の割合は重量で分かりますので、サプリメント全体の重さから栄養量を引いた残りが添加物という簡単な引き算が成立します。
栄養素と添加物の割合の推定 / 二つのサプリメントの比較
極端な例はこちらです。葉酸のサプリメントですけれど、1粒が0.3g、葉酸が200µgと書いてあります。単位が100万倍違うところに私はしびれます。多くの人はマイクログラムが分かりません。これは100万分の1g。どのくらい量に差があるのか分からないので、1,000分の1gを表すミリグラムで引き算をします。1粒300mgなので、その中に葉酸は0.2mg入っています、添加物は299.8mgですから、99.93%が添加物となります。飲みたいですか。
私たちの製品にも、添加物はちょっと入っていますけれど、ほとんどの重さがカプセルです。添加物を少ししか使用しないところが医療用サプリメントと一般向けサプリメントの違いを一番端的に表している部分ですね。ドクターが患者さんに変なものを飲ませたくないと考えているからです。
もう一つ、アドバイスをしますと、テレビショッピングでサプリメントを買うのはおススメしません。矢が飛んできそうですね。ですが、パッケージの観察ができないでしょう?
ということで、良いサプリメント選びのポイントは、パッケージをちゃんと見て、①栄養素の種類と配合量をチェックして、②ちゃんと順番を見て何がたくさん入っているのか調べて、③合成原料なのか天然原料なのか調べて、合成原料だったら値段チェック。④余裕があったら引き算をして添加物がどれぐらい入っているかというのを見てみる。すると、結構、選別ができます。
次の視点は薬機法とか景品表示法に配慮しているのかということです。
基本的にサプリメントは法律上「効く」「治る」と言っては駄目なのですが、そういう広告を見かけませんか? 法律を守る意識があまりないということです。法律を守る意識がないということは、設計や製造工程をごまかしているのではないかと疑いませんか?
それから、購入後に確かめられる方法もありまして、ぬるま湯にサプリメントを入れて30分ぐらい溶けるのを観察してください。これは簡単に確認できます。
あと、夏場にサプリメントを宅急便で送ると、運んでいる途中で熱により性能が劣化するので、私たちは梅雨明けぐらいから9月の半ばぐらいまでの間はクール便を使用します。このような配送の気遣いも選び方のポイントです。
そして、医療機関専用サプリメントと言っているのに一般にサイトで売っている製品。これはドクターサプリメントと言えば売れると思うからやっているのだと思いますが、医療機関でなく自分のサイトでも販売しています。
ということで、さきほどの2013年版の本をバージョンアップして改訂版が文庫で出ていますので、今日のお話しが書いてありますので、ぜひ参考になさっていただきたいと思います。
拙著(サプリメントの正体)も参考になさってください
田村忠司(たむら・ただし)
医療機関専門サプリメーカー「株式会社ヘルシーパス」代表取締役社長
1965年生まれ。富山県出身。
1988年東京大学工学部産業機械工学科卒業。同年、株式会社リクルートに入社。通信事業を中心に経営戦略、新規事業立案、マーケティング戦略立案に従事。
1998年「日本老化制御研究所」を擁する日研フード株式会社に入社。取締役経営企画室長、サプリメントの製造子会社の代表取締役社長として活動。
2006年「医療従事者が自信を持って使えるサプリメントを提供してほしい」という医師、薬剤師からの要請に応え、医療機関専用サプリメントの専門メーカー、株式会社ヘルシーパスを設立。栄養療法に取り組む医師・歯科医師へのサポート・情報提供のため、日本全国を飛び回り、楽しく仕事に取り組んでいる。
著作『サプリメントの正体』(東洋経済新報社)、『健康長寿の栄養学ハンドブック』(日本アンチエイジング歯科学会編:草隆社)、『自由診療・サプリメント導入実践マニュアル』(医業経営研鑽会編:日本法令)
・主な著書
「サプリメントの正体」(東洋経済新報社 2013)
「サプリメントの正体: 本当に「効くもの」「危ないもの」 (知的生きかた文庫) 」(三笠書房 2019)
「「これ」を食べればサプリはいらない」(東洋経済新報社 2015)
井村聡介(いむら・そうすけ)
株式会社ヘルシーパス 企画開発担当・取締役
1998年 北里大学水産学部卒業
1998年 日研フード株式会社入社
2006年 株式会社ヘルシーパス 創業 現在に至る
日本臨床栄養協会 NR・サプリメントアドバイザー
・株式会社ヘルシーパス Webサイト:https://www.healthy-pass.co.jp/