帰宅困難者たち12人の物語
[編集長コラム]
地震はある時、ある瞬間、突然にやってくる。
そして、それまでの日常が、その瞬間から、非日常にと変わる。
2003年に東北地方で震度6弱を記録した三陸南地震の時に、私(店長)は宮城県に赴き被害状況をみてまわりました。
宮城県松島の老舗ホテルでは、ちょうど地震が発生した時に、運悪く、たまたま若い女性のお客さんが一人で大浴場に入っていました。
若い娘が、素っ裸で、温泉につかっているその時、突然、大きな揺れが起こりました。
外は薄暗い18時半のできごとです。
お湯がぐるぐると波立って、湯船から投げ出されそうになるのを必死にこらえている最中に、今度は、停電になりました。
揺れが納まっても、何も見えず、また、助けを呼ぼうにも素っ裸なので大声を出すことも出来ず、ずいぶんと怖い思いをした・・・という貴重な体験談を伺ってきたのでした。
そう、災害は忘れた頃、予期せぬ時にやってくるのです。
だから、風俗店からバスローブ姿のまま慌てて飛び出したサラリーマン、なんてのが、裸にバスローブだけで、震災で運行停止した電車の線路の上を、とぼとぼと、恥しそうに、郊外に向って歩いてたりするかもしれません。
いわゆる、帰宅困難者です。
帰宅困難者とは、突然の大地震に見舞われために、交通機関がマヒし、自宅に歩いて帰るのが困難な人たちを言います。
通勤、通学、買い物の最中・・・。
日々、生活していれば、自宅から遠く離れた職場や学校、デパートや駅などで、たまたま地震に巻き込まれ、自分がそして家族が、帰れなくなってしまうことを想像してみて下さい。
実は、このバスローブのシチュエーションは、劇団マシュマロウェーブの『HOME(ホーム)』という防災劇の舞台でそのまま紹介されています。
防災劇ホームは、東京を大地震が襲い、交通手段が途絶えたという設定で東京から数十キロ離れた自宅へと歩いて帰る「いわゆる帰宅困難者」たち老若男女12人の悲喜こもごもな道中を扱った防災劇です。
演劇界の鬼才・木村健三氏が演出をし、昨年の初演の大好評によって、今秋(9月26日〜10月3日)に東京赤坂での再演が決定しました。
先日、この舞台の企画プロデューサの一人、鬼内(キナイ)秀起氏と初めてお会いしました。
都内に勤める鬼内さんは、2005年に東京足立区で震度5強を記録した地震の際に、都内の鉄道のほぼ全線が数時間にわたってストップ(約142万人の足に影響)し、渋谷や新宿など東京都心のど真ん中で、しょうがなく歩いて帰る人々の異様な光景を目の当たりにしたことに、強い衝撃を覚えたといいます。
感心するのは、そのバイタリティで、鬼内さんと出演する役者さんたちは、役づくりのために、実際に3度も、物語の中心となる「川越街道(池袋から川越=埼玉バージョン)」や「第一京浜(赤坂から横浜=神奈川バージョン)」という30数キロもの道程を徹夜で歩くイベントを行ったそうで、それらの実体験をもとにして、役づくりに臨んだそうです。
ホームでは、地震で東京が壊滅したあと、家にどうやってたどり着くのか?
自宅を目指す間に訪れる様々な出来事を、実際に街道を歩いた演者が、リアリティある迫真の演技で披露しています。
震災時の様々な人間模様を織り交ぜながら、災害時に実際に役立つ情報を紹介し、来場者の防災意識を高め、気付きを得られるように工夫されたエンターティメント劇ということなのですね。
非常に珍しい防災という難しい題材を扱ったプロの手による本格的な舞台演劇でもあるので、メルマガ読者諸氏、特に都内近県の会員様にはぜひとも見に行ってもらいたいと思います。
なお、私(店長)も9/29(土)か9/30(日)頃に見に行く予定でおります。楽しみ。
実は私、学生時代から舞台演劇好きでして、唐十郎さんの赤テント(恐らく全作品見た)とか、吉祥寺などの小さな舞台を良く見にいってたものです。
仕事と関係深いテーマの舞台は初めての体験なんです。
■この記事に関連する防災格言内の記事
歩いて家に帰れるか?―――大規模災害時の帰宅シュミレーション体験から生まれた防災演劇 HOME(ホーム)(2007.09.01 編集長コラム)
帰りたいのに帰れない・・・帰宅困難者問題の今(2007.09.04 編集長コラム)
帰宅困難者と「きつねのおきゃくさま(創作絵本)」から災害ユートピアを説明する(2011.03.28 編集長コラム)
防災格言,格言集,名言集,格言,名言,諺,哲学,思想,人生,癒し,豆知識,防災,災害,火事,震災,地震,危機管理,非常食