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【食中毒予防】飲食に起因する危害を防ぐには? | 山下千恵(公益社団法人 日本食品衛生協会)

time 2019/09/17

【食中毒予防】飲食に起因する危害を防ぐには? | 山下千恵(公益社団法人 日本食品衛生協会)

公益社団法人日本食品衛生協会公益事業部HACCP事業課技術参与として、指導助言等にあたられておられる山下千恵様よりご寄稿をいただきました。夏場の食中毒予防、防災食の提供での注意など、私たちが気を付けるべきポイントが良く分かります。


飲食に起因する危害を防ぐには

著者:公益社団法人日本食品衛生協会 公益事業部
技術参与 山下千恵

 

食中毒を防ぐには

飲食に起因する健康被害を「食中毒」と言います。その原因は微生物・化学物質・自然毒・寄生虫などいろいろです。

野菜・肉・魚介類等の原料には本来、多様な微生物がおり、取り扱いが不適切な場合に「食中毒」の原因となります(海産魚介類の腸炎ビブリオ、食肉等の腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌など)。

ノロウイルスや腸管出血性大腸菌(O157など)は、非常に少量(10個程度、通常は10~100個程度)で感染することから、飲食物以外の経路によって健康被害を起こす場合もあります。

また、感染しても症状がでない場合(健康保菌者)があり、知らないうちに食品への汚染を拡大していることがあります。さらに、増殖中に耐熱性の毒素を産生する微生物(黄色ブドウ球菌のエンテロトキシン等)もあり、「原因微生物(敵)を知る」「適切な取扱いをする(己を知る)」ことが重要です。

ノロウイルス
出典:国立感染症研究所ホームページ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/452-norovirus-intro.html

腸管出血性大腸菌O157
出典:国立感染症研究所ホームページ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/439-ehec-intro.html

(1)食中毒予防の三原則

多くの食中毒は、その発生要因から、食中毒菌を「①つけない」、「②増やさない」、「③やっつける」ことにより予防ができ、食中毒予防の三原則といわれています。

    ①つけない:多くの微生物は栄養・水分・適切な温度があれば増殖を始めます。中には増えなくてもごく少量で感染力を持つ微生物もありますので、「つけない」は食中毒予防の第一歩です。
    近年、食品取扱者からの汚染が原因となる食中毒が多発しています。食品取扱者の健康管理と手指の洗浄消毒は最も重要です。ノロウイルス食中毒の約8割は、患者・健康保菌者の糞便が手を介して食品を汚染したことが原因です。下痢・嘔吐など発症している人は決して食品の取扱をしてはいけません。また、健康保菌者は必ずいますので、それを前提とした対策(衛生的な手洗、手袋の着用など)が重要です。定期的な検便も、普段からの健康管理を意識づけるために大切です。
    ②増やさない:微生物が増えやすい温度帯は20~40℃、ちょうど夏場の気温と同じです。冷蔵庫の温度管理(庫内の温度を10度以下でコントロールする等)、調理が完了した食品はなるべく早く食べることが重要です。
    ③やっつける:原材料を「十分加熱する」ことによって、付着している微生物を殺してしまうことが衛生的な調理のポイントです。一般食品では中心温度が75℃以上で1分間以上の加熱が有効です(ノロウイルスに汚染している可能性のある食品では、不活化条件はまだ示されてないものの、代替ウイルスを参考に、85℃90秒以上の加熱が有効と言われています。)
    ただし、加熱後に手作業が加わる場合は「①つけない」ことの徹底が必要です。また、前もって調理したカレー、シチューなどはウエルシュ菌などの耐熱性のある菌(他に、ボツリヌス菌(ボツリヌス毒素:神経毒)、セレウス菌(セレウリド:嘔吐毒)があります。)による食中毒の原因となる場合があります。調理後はなるべく早く食べるか、保管する場合には加熱後の冷却を速やかに行い(扇風機で粗熱を取る、保冷剤で覆う敷く、氷があれば氷水を使い冷却等を行い)低温保管し、再加熱時には全体が沸騰してから十分な時間を確保するなど、十分な加熱が必要です。

(2)最近の食中毒の傾向

最近の食中毒は、少量の病原体で感染するノロウイルス、が件数・患者数とも大半を占めています。また、重症化する腸管出血性大腸菌(O157など)では抵抗力の弱い若齢者・高齢者で死亡事例も発生しています。

発生原因は、ノロウイルス食中毒は調理従事者からの汚染、カンピロバクター食中毒は加熱不十分な鶏肉、腸管出血性大腸菌(O157など)は加熱不十分な食肉や野菜でも発生しています。いずれも食中毒予防の三原則を徹底することが必要です。以下のURLをご参照ください。

カンピロバクター属菌
出典:国立感染症研究所ホームページ
  https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/385-campylobacter-intro.html

防災食で注意することは

避難所での食事や調理は、十分な水が確保できないために手指や調理器具等の清潔が保ちにくく、電源・熱源が限られ冷蔵・加熱が不十分など、食中毒予防のための有効対策が取りにくいことがお分かり頂けると思います。

現在、様々な備蓄食や非常食が商品化され「おいしい防災食」として注目されています。これらの食品は開封前であれば常温で一定期間保管が可能ですが、開封後は一般の食品と同じで、なるべく早く食べることが重要です。また、配られた弁当等を長時間保管することは禁物です。

平成24年に発生した京都府南部地域豪雨災害の際、救援物資の「おにぎり」の保管温度・時間の管理が不適切だったため食中毒が発生しました。保管温度等の管理だけでなく、調理担当者の衛生知識付与、手洗い・手袋装着の徹底が不足していたことも根本原因(汚染者原因)と考えられます。

繰り返しになりますが、被災地での食事だからこそ「つけない・増やさない・やっつける」の食中毒予防三原則を念頭に置いた取り扱いが重要です。

  • ①あえもの・生ものは避ける
  • ②加熱後は常温放置せず、なるべく調理後2時間以内に食べきる。配られた弁当等でも食べきれないものは回収し、廃棄する。
  • ③完全に加熱する。加熱後の手作業は避ける
  • ④体調の悪い人は食品作業をしない、

―――等です。これらを食品取扱者全員で意識共有し実践して下さい。

東京都福祉保健局では「避難所ですぐに使える食中毒予防ブック」を制作しているのでご活用ください。

避難所での食事においては、温かい食事を提供したい、被災者の心を少しでも癒してさしあげたいとの思いは貴重です。思いが「あだ」とならないよう、知る・対策することを皆で実行しましょう。

公益社団法人 日本食品衛生協会のしごと

全国59の都道府県市における食品衛生協会と連携して、食品等事業者の衛生意識の向上、自主管理体制の推進を行っています。
特に平成30年に改正された食品衛生法では、全ての食品関係事業者を対象にHACCPに沿った衛生管理が義務化されることとなり、これらの講習会等の開催、HACCP導入の支援などを進めています。

その他にも、食品衛生書籍の販売、食品等の試験・検査、食品営業賠償共済などの各種事業等を行っています。


【著者Profile】

山下千恵(やました ちえ)
公益社団法人日本食品衛生協会 公益事業部 HACCP事業課 技術参与
昭和49年3月、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年4月に東京都健康局 玉食肉衛生検査所食肉衛生検査員として入都後、多摩立川保健所等保健所勤務を経て、平成元年、女性では初めて食品機動監視班の班長を務めた。
その後、初代の中央卸売市場食肉市場業務衛生課長などを務められ、平成24年に東京都を退庁、同年4月より、株式会社日本レストランエンタプライズ品質改善推進本部品質管理部長を務められ、平成31年4月より現職。

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