「911テロ以降、危機管理の必要性を訴えてきたが、日本では水と安全は無料だ、という認識が根付いてしまっている」――――とは、今年2007年10月16日に発足したNPO法人・総合危機マネジメント協会の会長就任会見での佐々淳行氏の挨拶の言葉だ。
ところで、1997年末に話題となった地球温暖化と京都議定書だが、これ以降の1998年から2002年頃までの4年間くらいだろうか?、新聞・雑誌などのメディアでは「いつまでもあると思うな水と安全。」なる言葉が良く紙面に登場していたように記憶している。
これは、京都議定書で1996年に創設された世界水会議以降国際間における「水の確保」について議論されていたからである。
私は今日の日経夕刊の佐々氏のこの発言を見つけ、何だか久々に「水と安全」のフレーズを聞いたような気がして懐かしさを覚えてしまった。
余り聞かなくなったのは、今や、水と安全はタダという時代ではない、安全は買うものであることが当たり前のようになってきたからだろう。
ここでいう安全という言葉は、とても広義な意味を持つが、ほんの10年ちょっと前までは、国防など自衛隊やスパイのお話しや、輸入野菜の農薬問題、食品の安全性、銀行の破綻や金融のリスク、などなどは確かに今のようには余り意識されていなかった。
こんな調査がある。
日経流通新聞の今年の調査では、ミネラルウオーターを購入する20代・30代の人が全体の70%近くに達しているという。どういう調査手法かは良く分からないのではっきりと断言はできないが、水の購入理由の上位は「おいしいから」「安いから」だったそうだ。
購入理由に「水道水より安全そうだから・・・」といった理由が紙面で見受けられなかったのが個人的に意外だったが、かつての「水と安全はタダ」と言う考え方も今や過去のものとなっている裏返しなのかもしれない。
また、少なくとも20代・30代の世代には、そのような思想が浸透しているのだろう。
犯罪についても、警察庁の統計で1991年から2003年の10年間で、全刑法犯の認知件数は約1.6倍に増加し、反比例して検挙率は36.5%から20.8%に低下しているという。
防犯のホームセキュリティーサービスの普及率は欧米の10%と比べ、日本は1%足らずと差はあるが、防犯はもちろん、介護福祉などの分野とも関連して需要は高まっていると言われているが、犯罪が増えたといっても実際のところ、まだまだ昭和の時代から治安の良い日本ではある。
結局、水と安全はタダと国民が思いがちという点で、国際常識からかけ離れているのではと揶揄されているのが日本である。
飲み水でトイレを流すほどに豊富な水にめぐまれた日本だが、しかし、実際は膨大な量の水を輸入しているのは存外知られていない。
その多くは最近人気のペットボトルの水ではなく、実は、食料生産用の水である。
農作物を育てるための水や家畜の飼料に含まれる水分を「仮想水」と呼ぶ。
灌漑農法では、穀物を1トン生産するのに概ね1,000トンの仮想水が必要で、例えば1トンの麦を収穫するには2,000トン必要といわれる。
実際に、日本が国際的に批判を受けているお話は、つまり、日本は、先進諸国で最低の40%以下という食料自給率であるから、残りの食料60%は、全て輸入に頼らざるを得ない。
よって、日本が輸入する海外の食料の生産には、大量の水が使われており、日本は食糧の輸入という形を変えた大量の水を輸入する国家であるという論理展開である。
日本の年間降水量は平均で1,750mmで、これは世界平均の2倍であるが、人口1人当たりの降水量に換算すると、世界平均の1/4でしかない。
つまり日本の人口1人当たりの降水量はオーストラリアの1/37、アメリカの1/5、雨の少ないサウジアラビアの1/2というお寒い状況が見えてくる。そこで政府は雨を貯水するためにダムを建設する。
しかし、時代は、ダム建設に寛大ではなくなってきた。
ダムの貯水量を1人当たりに換算すると、日本は32立方メートルでありこれはカナダの1/20、アメリカの1/17、韓国の1/16でしかない。これでは、水資源の豊富な国とはとても言えない状況である。
国土交通省水資源部によると、日本の平均降水量は約6,500億トン。このうち35%の水は蒸発し、単純計算で残り4,200億トンが利用可能となるが、実際は、2003年度で農業用水に約557億トン、生活用水に約161億トン、工業用水に約121億トンの計839億トンしか利用されていないで、残りは海などに流れてしまっているという。
いかにして、降雨による自然な資源を有効活用するかがカギとなる、と有識者は話す。
人口増加と経済発展する中国が食糧の大量消費国となる一方で、今年の旱魃や不作で、穀物輸出国だったオーストラリアが一転して食糧を輸入することになるなど、ある突発的なできこどによって、食料の確保が困難になることもあり得るのということだ。
だから、日本の食料自給率はより深刻な問題なのだ。
食料を輸入することの論点に、食料を生産するための水資源の確保という問題が顕在化したことも、ここ10年の大きな時代の変化ではないだろうか。
水に関する統計や推計は、非常にあいまいで、正確なものではないが、国際的な統計では、世界の60億人の人のうち、20%の12億人が安全な水を確保できず、その結果、毎年500〜1,000万人が水が原因で亡くなっているのだという。後進国の病気の遠因の多く(80%)は不衛生な水に由来するからだそうだ。
どこか新聞のコラムに書いてあったことですが、
有史以来、戦争の一番の理由は「腹が減った」という食料の奪い合いだった。
また、河(川)という水資源をめぐって両岸が争うことも珍しくなかった。
10年ほど前のテレビ番組(NHK?だったかな)で「21世紀は水の時代」と誰か偉い外人さんが言っていた。(うーん、でも、当時は水資源と食料自給率にはあんまり言及していなかったのではないかな?)
いずれにせよ、国際的に国家間の安全保障と水政策というものは、無視できない重要課題となりつつあるようだ。
■この記事の関連情報(水と安全はタダの元ネタとなったもの)
日本人は、安全と水は無料で手に入ると思いこんでいる (2010.11.8 防災格言)
■「安全論・危険論」「防災論」「安全神話」に関連する防災格言内の記事
-「安全」を考える(2004.9.30 編集長コラム)
-日本の防災制度(2004.11.24 編集長コラム)
-教訓(安全神話とは何か)(2005.1.17 編集長コラム)
-小田原評定(2006.1.29 編集長コラム)
-災害に備えるということは?(防災論事始)(2007.10.3 編集長コラム)
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