「日本の亜熱帯化」の真実
刺すような日差し、うだるような暑さ…20~30年前とは明らかに違う近年の夏の暑さ。これについて「日本は亜熱帯(気候)になった」というような言説が耳目に触れる機会がありますが、はたして実際はどうなのでしょうか?
そもそも国際的な気候分類のスタンダードであるケッペンの気候区分の中に「亜熱帯」という気候はありません。亜熱帯とは「熱帯に次いで気温が高い地域」を示す便宜上の気候であり、日本の気候が「温帯」に属することは変わりません。
「日本の亜熱帯化」とはここ数年、大きく様変わりしつつある日本の気候に対する私たちの心の内の危機感を表した、ある種のスローガンといえるかもしれません。
「冬に桜」「春にコスモス」…失われる日本の四季
まず、本土と沖縄との違いで真っ先に思い浮かぶのが季節感でしょう。本土では地域による差はあるものの、“春夏秋冬”という四季の移ろいを感じとることができます。一方、沖縄の場合は年間の平均気温が23.1℃。特に6月~10月における沖縄の平均気温は5か月連続で25℃を上回っており、この数字だけを見ても本土の季節感とは全くことなる世界であることが分かります。
例えば私たちに季節の移り変わりを教えてくれる花の開花ひとつをとっても、本土では3月~4月にかけて開花する桜は沖縄では1月に開花します。沖縄の人にとって桜は“冬の花”なのです。また、同じく本土では秋の行楽シーズンに人々の目を楽しませるコスモスも沖縄では3月に見ごろを迎えます。
このように亜熱帯化が進むと、これまで日本人が長い年月をかけて育んできた春夏秋冬の季節感が失われてしまうことが予想されます。
亜熱帯化による湿度の上昇でさらに高温多湿に
さらに、亜熱帯化によってもたらされる変化として気温とともに見過ごせないものが湿度です。沖縄以外の本土ももともと高温多湿の温帯気候ですが、亜熱帯化することで湿度がさらに高くなることが予想されます。
例えば東京と沖縄それぞれの6月の平均湿度で比べてみると、その差は一目瞭然。東京の平均湿度が約70%なのに対して、沖縄はなんと80%超。ただでさえ蒸し暑い東京の梅雨の湿度をはるかに上回っているのですから、その蒸し暑さたるや推して知るべきでしょう。
実際、沖縄に移住した人の多くが、気温の高さよりも湿度の高さに驚いたという声も多く聞かれます。
亜熱帯化がもたらす湿度の上昇によって、実生活においては「洗濯物が乾きにくい」、「住居などにカビが生えやすい」といった問題が日常化し、除湿器が必需品となりそうです。
夜型のライフスタイルがさまざまな問題を誘発
さて、亜熱帯化によってもたらされる変化は私たちのライフスタイルにも及びます。
まず想定されるのは「夜型生活への移行」です。これは単に気候だけに起因する問題ではありませんが、世界のライフスタイルを俯瞰してみると台湾や東南アジア諸国の夜市文化に代表されるように、熱帯に近づくほど生活が夜型になる傾向があるようです。
実際、沖縄では夜型のライフスタイルが定着することで、若者の深夜徘徊などが問題化。沖縄タイムス紙の調査によれば、「月1回以上、子連れで午後8時以降に外食や買い物に出掛ける親が31%に上る」ことが明らかになっています。
このように夜型生活への移行により、犯罪率の増加などが想定されそうです。
気温の変化に備えつつ、環境のためにできることを
さて、ここまで沖縄を例に挙げ亜熱帯化によって起こりうる私たちの生活の変化をご紹介しました。先に述べたこと以外にも多くの変化が起こりうるため、気候の変化は私たちの生活そのものを一変させてしまうと言っても過言ではありません。
はたして日本は本当に亜熱帯になってしまうのか――。環境省では近年の温暖化による気候変動を受けて次のような「2100年未来の天気予報」を発表し、人々に警鐘を鳴らしています。
猛暑を災害として認識することで、備える一方、その災害の原因を作っているのは紛れもなく私たち人間である、ということを理解し、地球環境に対する認識を改めていきべきでしょう。
“2100年、未来の夏の天気予報をお伝えします。今日も全国的に猛烈な暑さとなりました。最高気温は高知県四万十市で44.9度、名古屋で43.9度、東京でも43.6度と記録的な暑さとなっています。この暑さの影響で、今日までに全国で12万人が熱中症で病院に運ばれています。”――環境省作成『2100年未来の天気予報』
出展
亜熱帯の定義
https://kotobank.jp/word/亜熱帯-26463
沖縄の気候
https://weather.time-j.net/Climate/Chart/naha
沖縄で桜開花
https://weathernews.jp/s/topics/201801/110195/
沖縄の夜型社会問題
https://ryukyushimpo.jp/okinawa-dic/prentry-43316.html
2100年未来の天気予報
http://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/topics/20180820-01.html