前編では、「女性のための防災BOOK」の編集方針から女性にとって本当に必要な知識や行動から一人ひとりにとって必要なものは何かを考えて紹介しました。後編では、震災発生から普通の生活に戻るまでのそれぞれのタイミングで心がけておきたいこと、取材で聞いた生の体験から得られる教訓について紹介します。
前編の質問の解答例
本題に入る前に前編で行った質問の解答例
Q1:「非常食」と聞いて、最初に思い浮かべるものは何ですか?
・乾パン、水、缶詰、アルファ米、カップラーメン、レトルト食品、キャンディー、野菜ジュースなど
Q2:用意している防災グッズをあげてください?
・自転車、懐中電灯、トイレ、雨具、水なしシャンプー、バンドエイド、蚊取り線香、チャッカマン、マッチ、バケツ、ポリ袋、軍手、ろうそくなど
*使ったことがないものを防災グッズとして準備している場合は、一度使ってどうやって使うのか理解しておく必要があります。
Q3:非常時に「ストール」が1本あります。あなたならどんな使い方をしますか?
・ロープの替わり、日よけ、けがの際の止血、包帯の替わり、巻きスカート、トイレの目隠し、防寒など
*ストール以外でもいろいろな応用ができないか考えてみましょう。1つでたくさんの応用ができると、持ち出さす量を減らせます。
震災後のそれぞれの時期における暮らし方の違いと注意すべきこと
防災に備えて用意しておくべきグッズや使い方がわかっても、それだけでは不十分です。震災が起きて直後に必要な準備と、しばらく経過してから、および相当な期間が経過してからでは、同じ生活スタイルで過ごすのではなく状況が変わってきます。以下のようにそれぞれの時期によって、必要なものや注意すべきことが異なることを知っておく必要があります。
1.震災直後の時期
日本の公的な物資が届き始めるまで最低で2日はかかるといわれています。最悪この2日間、少し余裕を見て3日分は、援助が届かなくても命をつなぐために必要な最低限の水や食料を家族の人数分用意しておかねばなりません。水は、1人あたり1日2リットル程度といわれていますが、場所をとる、重くて運べないなどの理由から、少し少な目に用意しておいて大事に使うというのも一案です。
*ここは皆様のお考えにお任せいたします。
2.震災から3-7日後の時期
この期間は、夏の暑い時期だけでなく避難所や自宅での避難生活でも衛生状態が悪化することに加えて、不十分な食事による栄養不足や心身の疲労・ストレスから食中毒やさまざまな感染症などにかかる可能性が高まります。例えば女性は、入浴できなかったり制限されたりして、また十分な着替えがなく同じ下着をはき続けなければならないことなどがストレスになって、その影響で婦人科系の病気になるリスクが大きくなるとも言われます。対策の1つとして使い捨てできる紙のショーツやおりものシートなどを十分な数を用意しておくとよいでしょう。これらは衛生を守るために使い捨てできるので便利です。
3.震災から2カ月後の時期
災害時には、災害救助法と呼ばれる法律によって国や地方自治体の行政機関は、被災者の支援のために避難所を設置し、炊き出しをしたり、食品や飲料水を供給したりします。しかし、災害救助法では避難所の開設期間は、原則「7 日以内」とされています。大規模な災害で避難生活が長期化しても自宅での生活が可能なときは、7日後以降は原則として自宅での避難生活をしなければなりません。そこで、どうやって自宅で暮らせるのかを考えることも必要です。ただし、当然ですが、住居が損壊したり、傾いたり、川が氾濫していたりしていれば避難所生活は可能です。
なお、7日目以降でなくても、周りから人がいなくなって孤独でも寂しさなどを感じないときは、自宅住居に安全に住めれば、在宅避難をしても問題ありません。むしろ、周囲の目が気になる避難所での生活のストレスを考えると在宅避難を考えたほうがよいでしょう。ストレス以外にも、避難所での避難者1人当たりの面積が十分でなく、最悪の場合は1人が専有できる面積が1メートル×0.5メートルと畳1枚にも満たない狭さになるからです。これだと横になって寝るのも困難です。1人あたりの面積が法律や内閣府防災のガイドラインでは示されていないこともあって、地方自治体が制定するマニュアルでは、最悪のケースでこの程度の広さにしかならない場合があります。
何が便利であったか避難所生活を経験した女性から聞いた生の声
①生理用のナプキン
生理用ナプキンは昼用と夜用があります。好みにもよりますが、一般的に考えると長い時間でもたっぷり吸収してくれる夜用のほうが、トイレの状況も悪く行きづらいことから需要が多いと考える人も多いかと思います。しかし、実際にニーズが高かったのは昼用でした。理由は、お風呂も入れないことから衛生状態が悪く、そのような状況で夜用を例えば半日もはき続けるとかぶれて、すごいストレスに感じるからです。昼用を1個でも多くもらってすぐに取り換えたいというニーズが多く聞かれました。
②紙ショーツとおりものシート
同じく下着の数が少ないことやなかなか簡単に着替えをできない環境、そしてお風呂に何日間も入れないのに同じ下着を着続けなければならないことは大きなストレスになります。また、特に女性は、デリケートゾーンの不衛生さは精神面のつらさだけではなく、かゆみをすごく訴える女性も多くみられました。さらに、婦人科系の病気や感染症など衛生面も大きな問題です。
このような状況では紙ショーツはとても便利ですが、普通の下着と比べると圧倒的に着心地で劣ります。そこで、一般的には紙ショーツよりもおりものシートの需要がすごく高いのでないかと考えられます。その理由は、おりものシートをたくさん用意しておいて、普通の下着におりものシートを貼って捨てて、貼って捨てることが簡単にできるからです。しかし実際には、紙ショーツがどうしても欲しいという声がすごく多く聞かれました。下着に貼って捨てる手間すらも省きたいという理由からです。紙ショーツは、はき慣れていないとすごい抵抗があると思われます。エステを利用する人は、紙ショーツをはいた経験があるかもしれませんが、はいた経験がないときは、実際にはいてみて自分に合いそうか試して、問題なければ、少なくとも2日分ぐらいを用意しておくと役に立つでしょう。
防災グッズを使いこなす知識・災害時の心理などの知識は重要
防災を意識して防災や非常時に必要なものを準備することも大切ですが、ものだけをいくら準備しても非常時に使いこなせなければ意味がありません。使うための知識と、スムーズに使えるために十分な経験も同時に必要です。また、生理用品や人に聞けないこと、異性にはわからないことを理解して知識として知っておくことは重要です。
自分と違う立場の人や考え方が異なる人がいます。そのような人が考えること、あるいは非常時にはどのように考えるのかを知識として知っておくことも役立ちます。女性の立場、男性の立場、行政として支援する立場、支援される立場など、立場を変わることはできませんが、知識として知ることはできます。それができると、どうすればみんなが快適になれるのかがわかって、お互いに非常時の生活を気持ちよくできます。
例えば、避難所は避難する人にとって平等であることが重要とする考えは重要です。ある避難所で男性の担当者が避難所の真ん中に女性用の脱衣所を作りましたが、これは広い避難所のどこからもできるだけ同じ距離にするという平等の考えからです。しかし、真ん中では多くの他人の目が集まって、抵抗がある女性が多くいました。その抵抗があるということ、また平等を心がけている人がいることを知ることが大切です。それで不満も少しは解消できます。その意味ではこの書籍が男性に読まれることも必要なことです。
防災専門家の重要な話
最後に、防災専門家に聞いた話です。基本的なことですが、「被災したら自分の命を守ることが第一」、次に、「自分の命が守られていることが確認できたら隣の人の命を守る」ことが大切です。このことは、人道的にも、相互助け合いという点でも大切なことですが、もっと現実的に非常時を自分自身が生き抜くために重要なことです。なぜなら、自分を助けてほしい、あるいは自分が助かりたいということしか考えていない人間は正しい判断ができないからです。例えば、自分のことしか考えないと誰かが正しい安全な場所まで誘導してくれると受け身になって、地下鉄で閉じ込められてもずっと待ってしまうとか、倒壊しそうなビルでも人の指示を待って最悪な結果になりやすいからです。しかし、隣にいる人の安全を守って、命を助けようというふうに思うと必然的にいろいろ考えなければならないので人間は賢くなります。賢く考えられると冷静に次の一手が何か見えてきて、他人を助けるだけではなく自分をも助けることにもなります。
講師PROFILE
中島 千恵(なかじま ちえ)
株式会社マガジンハウス Hanako編集部勤務。
・マガジンハウスに勤務し、『anan』の編集から始まり、現在は『Hanako』の編集を担当するなど女性誌を長年にわたって担当。3.11の東日本大震災を東京の事務所で勤務中に経験。防災の専門家ではないが、「女性と防災」を考えると女性にとって何が重要なのか、どういうものが本当に役立つ情報なのかということが不足しているとして、2011年に発行した『anan特別編集 女性のための防災BOOK~“もしも”のときに、あなたを待ってくれる知恵とモノ』の編集を手掛ける。防災の専門家ではないことが、かえって女性の視点から女性にとって必要なものが見える編集方針となっている。
・2018年東京都が発行した女性視点の防災ブック『東京くらし防災』の編集・検討委員。
・参考
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