電線や電話線の支持用として設置されている電信柱。日本では1860年代から建設されており、電柱のある光景は多くの人にとって、あたりまえの光景でしょう。しかし海外では景観を考えて無電柱化を行っている国も多くあり、ここ数年日本でも景観や防災のための無電柱化が注目されています。ここではその概要やメリット、デメリットを考えていきます。
まず無電柱化のメリットとしては、国土交通省も発表しているように、景観が良くなることで街の価値が上がり、観光振興につながることがあげられます。それ以外にも、歩行者が歩きやすくなったり、車イスやベビーカーも通りやすくなります。また道路標識が見えやすくなることで事故の減少も期待されています。このように数々のメリットがある無電柱化ですが、大きな地震による被害があった際、地下に設置していることがかえってマイナスにもなりかねません。防災上においても役立つものなのでしょうか。
次からは日本の災害の歴史を振り返り、この無電柱化と防災について考えていきます。
災害と停電
洪水や落雷などの自然災害による断線、倒壊が起きれば、各家庭への送電が途絶えてしまい、停電してしまいます。
電気事業連合会が発表している年間停電時間からわかる通り、世界的にみると日本では年間平均停電時間が短く、電力品質が高いと言われていますが、災害の規模が大きい場合は、復旧までには当然時間がかかります。
一般財団法人電力中央研究所の発表によると、東日本大震災時には青森県、岩手県、秋田県、宮城県では95%以上の世帯で停電し、約80%復旧するまでに3日、約94%の復旧まで8日を要しています。
水道やガスと比べると電気の復旧は早いと言われていますが(阪神・淡路大震災時では水道やガスの復旧に数ヶ月かかったところ、電気は6日で復旧している。
参照:https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/sinsai/graph/p3.shtml)
日常生活において当たり前のように存在する電気が数日間も失われてしまうことは非常に大きな痛手ともいえます。さらに遡ってみると、1965年6月には台風によって関西地方を中心に大規模な停電が発生し、1987年には1兆8千億円もの経済損失を生んだ首都圏大停電が起きています。また、阪神大震災では8000本以上の電柱が倒れ、大規模な停電が発生しました。このように停電は時として大きな被害を招きます。
「無電柱化」東京で全国初の条例化
こうした停電への対策の一つが「無電柱化計画」です。道路の地下空間に電力線や通信線をまとめて収容する電線共同溝を整備するなどして、街頭から電柱をなくします。全国で初めて東京都で無電柱化を推進する条例が制定され、2017年9月1日に施行されます。地下に埋められた電柱のほうが被災率は低く、国土交通省によると、無電柱化されていれば、阪神・淡路大震災では電柱8000本以上あった被害を80分の1にまで減らしたと推測されています。
しかし、万一電線に異常が起きた場合、復旧するには地上にある電柱を修理する時間の倍以上の時間がかかると見積もられています。また、電柱には避雷針の役割もあるため、避雷針としての役割を担ってくれるものが別途必要となります。無電柱化にはこうしたデメリットがあるのも事実です。
“大震災” は人々の英知と努力によって防げる
日本は地震大国です。これは地球上にわずか十数枚しかないプレートのうち、4枚のプレートが日本の国土の下に集中しているためで、将来的にも地震のリスクは避けられません。現に未曾有の大災害といわれた東日本大震災後にも、最大震度7の熊本地震が起こっています。この日本に住む以上、さまざまな知恵を出し合って被害を最小限に食い止める必要があります。
元NHK解説委員である小田貞夫氏も「“大震災” は人々の英知と努力によって防げる」という防災格言を述べています。地震に強い無電柱化計画を進めることも被害を防ぐ一手だと言えるでしょう。さらに、大震災を避けるためには地震後の迅速かつ適切な対応も重要となります。東日本大震災で停電による被害を拡大せずに済んだのは、送電・変電・配電などの部門間の情報連携がうまくできたからだと分析されています。(一般財団法人電力中央研究所「日本の電気事業の災害対応状況(東日本大震災を中心に)」発表による)
無電柱化は、電柱が無くなるため、地震による断線を現在の電柱状態よりも防げるのは確かです。しかし、あらゆる災害は私たちの想定を超えてきました。だからこそ被害の大きい災害が数多く起こってきました。
そうであれば地下に電柱があることは、景観が良くなること以上に、「もしも地下で断線した場合、今よりも復旧に時間がかかるかもしれない」というデメリットも考えなければなりません。
災害は現在の暮らしの延長線上に存在します。現在のメリットを取るのか、将来のデメリットを取るのか、今後の無電柱化に注目していきたいところです。