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“いつも” と “もしも” の壁を低くする「備えいらずの防災レシピ」 | 著者:飯田和子(栄養士・調理師・国際薬膳師)

time 2020/09/02

“いつも” と “もしも” の壁を低くする「備えいらずの防災レシピ」 | 著者:飯田和子(栄養士・調理師・国際薬膳師)

“食”の専門コンサルタントとして料理教室や食育、健康指導、企業へのアドバイスなどを手掛けるキッチンスタジオ「株式会社WA・ON」を主宰され、自治体や学校などが主催する防災食教室の講師を長年務められている飯田和子さんの新刊「備えいらずの防災レシピ」(東京法令出版)についてお話を伺いました。


“いつも”と“もしも”の壁を低くする「備えいらずの防災レシピ」


著者:飯田和子(栄養士・調理師・国際
薬膳師 日本災害食学会災害食専門員)

 

“食”の専門コンサルタント――私の履歴書

山口県岩国市出身の私は、自然に恵まれた環境の中でのびのび育ちました。おままごとが好きだった幼い頃、それが気付けば料理として生活の一部になっていました。科学や物理に興味を持ち、生物が好きだった高校時代を経て、「食べることは生きること」が実践できる栄養士を志しました。栄養士の資格を得て、初めての仕事は調理師学校でした。栄養学や食品学の講義をし、調理実習では助手に入り、専科の先生方の技術を学ばせていただき、忙しくも楽しい日々を過ごしました。慣れないことも多く、数え切れないほど大変な思いもしましたが、この時の経験は何一つ無駄にならず、すべてが今の活力になっていると感じます。

飯田和子さん(スタジオWA・ONにて)
飯田和子さん(スタジオWA・ONにて)

 
栄養士の主な仕事のひとつに、栄養価計算があります。西洋医学に基づく考えの中で数字合わせをする。その無機質にも思える食材の選び方について、歳を重ねるごとに違和感が深まっていきました。もっと旬を感じ、香りや食感も含めて食材そのものを見つめることが必要なのではないか。季節やひとりひとりの体質や状況に合わせた食材選びをすべきではないのか。スパイスやハーブについての学びを経て、薬膳へと辿り着きました。
栄養士の薬膳勉強会で意気投合したメンバーと東京栄養士薬膳研究会を立ち上げ、その後国際薬膳師の資格を得て、現在は本草薬膳学院での講師をはじめ、各所で講演させていただくまでになりました。食べることは、元気に生きる「未病(対策)」につながる。直接的には薬膳のレシピでなくても、食べることに関しては基本的にすべて薬膳的考察を加えることは欠かせません。さまざまな分野の企業様からレシピ作成のご要望や、商品開発への助言をさせて頂く機会なども多く頂いておりますが、すべて薬膳の考え方からご提案させていただいております。
なお、ご用命などございましたら株式会社WA・ONまで、是非お気軽にお問い合わせくださいませ。御社に寄り添い、ご提案いたします。

WA・ONホームページ
WA・ONホームページ

 
薬膳と並行して、食育にも積極的に取り組んでおります。子供たちが成長して育っていく中で、楽しく料理をして楽しく食べることが生き抜く力につながることを実感したことから、次世代に『食』を伝える講座をはじめました。楽しいクッキングがコンセプトの、0歳からの食育。食材や調理道具について知ることからスタートし、五味や行事食について伝えていきます。五感をフル活用して楽しむ料理に子どもたちは皆、興味津々です。講座の中では包丁も使います。火も使います。いかに安全で衛生的に料理を楽しむか、楽しくつくってみんなで美味しく食べて欲しい、この考え方は今月(2020年8月)に上梓した新刊『備えいらず防災レシピ:「食」で実践フェーズフリー』(東京法令出版)にも生かされています。

防災食研究の契機となった阪神淡路大震災

「災害時の食」を研究し始めたのは、1995年のこと。阪神淡路大震災での妹家族の被災がきっかけです。当時、まだ「フェーズフリー」という言葉に出会う前で明確に表現できておりませんでしたが、災害時にしか使う機会のないであろう特別なものを用意するのではなく、まずは普段から自宅にある食材を生かすべきではないかと考え、お鍋で炊くご飯を提案しました。炊飯器が普及した昨今、お米はあるのにライフラインが途絶えて炊飯器が使えなくなると食べられない事態が発生する、それは本当に勿体ない。平常時に何度かお鍋で炊いたことがあれば、「もしも」の時にも「いつも」と同じようにお鍋で炊くことが可能なはずなのです。日本には伝統的な知恵の詰まった「和食」という文化があります。乾物もその一つ。本書でも紹介しておりますが、軽くて常温長期に保管できて常備するのにぴったりな乾物を、同じく常温保存可能なロングライフ牛乳で戻すレシピは、簡単で栄養価も高く美味しく頂けるレシピとしてご好評頂いております。「いつも」の身近な食材を「もしも」のときに使うという提案を講座で重ねていく中で、2011年には東日本大震災が発生しました。計画停電で電気の供給がストップする事態を実際に経験し、もっと簡単で誰にでもわかりやすいレシピの作成を加速いたしました。

フェーズフリーという備え方

「備えいらず」とは、本当に全く何も備えないということではありません。サブタイトルにある「フェーズフリー」(Phase Free)は、「平常時(いつも)と非常時(もしも)の垣根をなくしフェーズ(社会の状態)にかかわらず使っているものを使う」ということです。特別なものを揃えて災害に備えるには、限度があります。日常の延長線上で発生する災害の場面でも、いつも使っているものをそのまま使うことで適切な生活の質を確保できれば、結果的に新たに特別なものを備える必要はありません。この「フェーズフリー」という考え方は、防災工学が専門の社会起業家・佐藤唯行先生が提唱されています。2016年に佐藤先生に初めてお会いした際、今まで自分が言葉で表現できていなかった考え方こそ「フェーズフリー」の考え方と合致していると感じ、その場で「フェーズフリー」という言葉の使用許可をいただきました。2018年には一般社団法人フェーズフリー協会が発足し、弊社も「アクションパートナー」として参加し、活動しております。

月刊消防の人気連載「家で職場で防災レシピ」から書籍化に

災害時には2次災害を防ぐためにも、安心安全な食が強く求められます。平常心を保つことが難しい状況下でのケガを防ぐため、包丁を使わずキッチンバサミやピーラーを使うこと、子どもや高齢者など誰でもが簡単に調理できること。また、特に大切なのが衛生面です。食中毒を防ぐため、食中毒菌汚染や異物混入の危害要因(ハザード)を知り、原材料の入荷から製品の出荷の工程までの重要管理点(CCP)を管理する衛生管理手法を学び、HACCPコーディネーターの資格を取得。災害時の食をお伝えする中でもレシピ工程を改めて見直し、直接食材に触らずポリ袋やポリ手袋を用い、可能な限り最終工程が加熱で終わるよう心掛けています。また、防災ふろしきコーディネーターも取得し、ふろしきや布の有効な活用法をお伝えしております。本書のレシピの中で食材を湯煎する際の「すいか包み」などは、ふろしき結びの技術を応用したアイデアです。

試行錯誤しながら進化を遂げ、ご提案してきた「災害時の食」。その集大成ともいえる今回の出版のきっかけは…キーマンとなる東京法令出版の松宇氏でした。
松宇氏は、月刊警察や月刊消防といった雑誌の編集長や各種単行本の企画、受注生産の本の顧客担当の営業などをして現在に至る東京法令出版のベテラン編集者です。
彼の友人である株式会社キープペダリング代表取締役トンプソン智子氏を通じて、私の活動を知り、

災害時のいざというときのレシピを作っていらっしゃり、それをネットで発信されているということ、それらをベースとした各種研修等を定期的に開催されているということを知り、これは、「月刊消防」での連載の材料としてうってつけ。行ける!

と直感的に思ったそうです。

様々なご縁が紡がれ、2019年4月から消防士の専門誌「月刊消防」で連載が始まりました。より多くの人に「いつも」の食事を「もしも」の食事にすることの重要性を伝えるべく、同年末には単行本化に向けたプロジェクトチームが立ち上がり、2020年1月にはレシピを決定し、2月に写真および購入者限定特典となる動画の撮影。しかし3月になり、新型コロナウイルスが蔓延、緊急事態宣言も出され自粛ムードの中、出版の是非についても悩みました。今この時だからこそ、皆様のお役に立てるならと出版に至りました。

編集の松宇氏は、本書の構成を

「家で職場で防災レシピ」の「家で」は、消防官であるご主人が自宅に持ち帰った「月刊消防」をめくる奥様を意識し、「職場で」は、消防官が消防署内で関わる「賄い食」、あるいは消防官による「災害現場での住民との対話」をイメージしています。

「月刊消防」の読者に、実際の災害時に「食」とどう向き合うか、消防官自身としての向き合い方、住民の方々にどう向き合ってほしいのか、そんなことを机上の議論ではなく、実際の問題として現実的にイメージしてもらうための、また、実際にレシピを調理して経験を重ねてもらうためのきっかけになればという考えのもと、連載の構成をまとめさせていただきました。

と考えてまとめています。

備えいらずの防災レシピ

つくったことのない料理をもしものときにはじめてつくるのは難しいはず。
備えいらずの防災レシピ 「食」で実践フェーズフェリー』では、「いつも」の食事を楽しんでいただくことが「もしも」の時の安心安全な食に繋がる、フェーズフリーな食を提案しております。どんな時でも温かい食べ物を口にするとホッとでき、「さあ頑張ろう」と前向きになれるはず。これから続く新しい生活様式の中で食べる力を養ってほしいと思っております。

今後も「お料理って簡単で面白い。」「楽しそうだから作ってみよう」と思っていただけるレシピ提案を続けてまいります。ご期待くださいませ。



備えいらずの防災レシピ 「食」で実践フェーズフリー

フライパンピザ
具だくさんシチュー
Photograph by 松村宇洋(Pecogram)

【関連リンク】
・飯田和子先生のキッチンスタジオ 株式会社 WA・ON
http://www.waon-co.jp/

・書籍『備えいらずの防災レシピ』(東京法令出版)オフィシャルサイト
https://www.tokyo-horei.co.jp/bousairecipe/

・『月刊消防』(東京法令出版)オフィシャルサイト
https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/shobo/
 
 

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