危機管理で一番重要なのは組織やシステムよりも指導者である―――と良く言われる。
1995年の阪神淡路大震災では世論調査で「首相や官邸の対応が鈍い」「自治体の対応が混乱した」「自衛隊の出動が遅い」の順に回答が多かったという(1995年1月末実施の読売新聞社の世論調査より)。
海外からも「スロー・レスポンス(遅い対応)」と皮肉を言われた当時の村山内閣は、初動体制や初期対応の遅れから与野党内で強い批判を受けた。
村山首相曰く「初めてのことで、早朝のできごと」と釈明したり、武村蔵相の「(震災で)復興需要が高まる」といった復興景気を期待する趣旨の発言まで飛び出るなど、結果責任は問われて当然とまで言われた。
この時、被災者の救援、速やかな復興、危機管理体制の整備のため海外の事例を手本として見習おうと、国会内で関心が高まったのが米国の連邦緊急事態管理庁(FEMA)なる危機管理組織だった。
しかし、FEMAも、阪神のほんの一年前まで、アメリカ国民の評価は決して高くはなかった。
「組織は立派でも機能なんてしてないさ」「FEMAって何?」、これが一般的なアメリカ人の認識だったのである。
アメリカでは、ブッシュ大統領のお父さん―――パパ・ブッシュ政権時代の1992年、フロリダ州に巨大ハリケーンが襲来し大きな被害に見舞われた。当時の大統領(パパ・ブッシュ)もFEMAも、自然災害対策への認識がほとんどなかったため、初期対応が遅れに遅れた。この時のニューヨークタイムズ紙の論評が面白かった。
「FEMAなんてダメ役人の寄せ集め組織、廃止した方が良いだろう」
ちなみに、今年のハリケーン「カトリーナ」と「リタ」の被害を見ていると、歴史は繰り返すというが、親子揃ってブッシュ家のイラク戦争とハリケーン災害の対応・・・偶然の一致なのか、そら恐ろしい。
阪神大震災のちょうど1年前、1994年1月17日早朝4時30分にカリフォルニア州を直下型のノースリッジ地震が襲った。これに対応したクリントン大統領の出現によりFEMAの評価は一転した。
パパ・ブッシュ大統領の失敗から教訓を得たクリントン氏は、アーカンソー州知事時代に災害対策のブレーンとして専門家を招き危機管理を勉強していた。このブレーン(ジェームズ・ウィット氏)は、クリントンさんが大統領就任後、すぐさまFEMA長官に任命された。
ノースリッジ地震が発生した時、このウィット長官は、大統領に電話ですぐさま連絡、指示を受け、予め作成されていた各州の防災連絡マニュアルに従がって本格的な救急活動に入った。早朝だったにも関わらず、地震発生後、僅か15分後だった。この災害により、FEMAは、世界各国の危機管理のお手本となった。
ところがクリントン大統領から息子のブッシュ大統領に政権が替わると、それまで独立組織だったFEMAを、2001年9月11日のテロを機に設立された国土安全保障省に編入してしまった。「横の連携を強化」するつもりだったが、FEMAは大きくその組織体が変わってしまい、結果的に今度のハリケーン被害を受けて、全てが裏目となった。
連日のマスコミの煽りも受けて、FEMAへの評価は、クリントン政権以前の状態にまで戻ってしまいそうな勢いである。
■「FEMA」に関連する防災格言内の記事
元FEMA長官 ジェームズ・ウィット氏(2010.1.11 防災格言)
拝啓 ブッシュ大統領様(2005.9.27 コラム)
米国に学ぶ「危機管理」(2002.3.10 コラム)
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