防災意識を育てるWEBマガジン「思則有備(しそくゆうび)」

AI(人工知能)と最新技術が切り拓く近未来の”防災”とは

time 2018/08/24

AI(人工知能)と最新技術が切り拓く近未来の”防災”とは

東日本大震災以降、来たるべき次の大地震がいつ・どこで起きるのかは、国民的な関心事です。例えば、東は静岡県から西は九州まで広く太平洋側地域を襲うとされる「南海トラフ巨大地震」は“今後30年以内に70~80%の確率で発生する”ことが政府・地震調査委員会により指摘されるなど、具体性をともなった驚異として周知されつつあります。

そんな中、急速に進化するAI(人工知能)などの最新技術を自然災害の予測に活用しようとする動きが活発になっています。膨大なデータをスーパーコンピュータで解析し、人間では到底解き明かせない未来の脅威を発見しようというのです。川崎市が産学共同で着手したAIを用いた「津波予想」をはじめとするAIや最新技術を用いた防災を紹介します。

日進月歩のテクノロジーでも、まだまだ「予知」は難しい?

「もしも、これから先の未来に起きる自然災害の時間・場所を事前に知ることができたら…」。誰しも一度は考えたことであるであろう災害予知。災害が起きる時間、場所、そして大きさ。これら三つの要素を高精度で予測することを「予知」と言いますが、はたしてそれは可能なのでしょうか? これに対して、気象に関する国の最高機関である気象庁は次のような見解を示しています。

(時)一週間以内に、(場所)東京直下で、(大きさ)マグニチュード6~7の地震が発生する」というように限定されている必要がありますが、現在の科学的知見からは、そのような確度の高い地震の予測は難しい

つまり東日本大震災以降、週刊誌などでしばしば報じられている民間学者らによる予知・提言は、エビデンスに乏しい非科学的なものだというのです。
もちろんこの見解には気象を司る国家機関として民間の論説を安易に認めるわけにはいかない、というポジショントーク的なニュアンスも含まれているはずですが、災害を予知するためにはまだまだ時間が必要である…というのが大方の見方といっていいでしょう。

「電脳防災」という新しいアプローチ

とはいえ、科学の進歩は加速度的に進んでいます。次々と襲いかかる自然災害に対して、科学者たちは手をこまねいているわけではありません。
その具体的なアクションの一つが、2017年に国立科学法人・防災科学研究所が運用を開始した「陸海統合地震津波火山観測網」、通称MOWLAS(モウラス)です。
MOWLASは1995年の阪神・淡路大震災を教訓に整備を進めてきた陸域の地震観測網や火山観測網のほか、2011年の東日本大震災を大きな契機として整備を進めている海域の地震・津波観測網を統合。全国約2100カ所にも及ぶ観測所を1つの巨大なネットワークとして統合し、地震などの自然災害の検知に用いようとする試みです。

同研究所は、MOWLASの運用開始によって「津波で最大20分、地震で最大30秒」早く検知できるようになったとしています。また、MOWLAS発足に際して同研究所の林春男理事長は「今後予想される南海トラフ地震や首都直下地震の被害軽減へどう活用し、発展させるか考える」と述べ、「南海トラフ地震」や「首都直下地震」という具体的な脅威への備えになるべく精度のブラッシュアップに期待を込めています。

モウラス

陸海統合地震津波火山観測網:http://www.mowlas.bosai.go.jp/mowlas/

AI(人工知能)を活用して津波を予測する

MOWLASの他に最新技術を自然災害の予測に役立てる試みとして注目を集めているものに、川崎市と富士通、東京大学が共同で着手した「AI(人工知能)」を用いた津波予測があります。
これは、地震や津波そのものの発生の予知を目指したものではなく、「AIを使って南海トラフ地震などの津波を発生直後に予測して防災に生かすシステム」です。
具体的な設計は次の通りです。

1.まずAIに地震が発生した際に川崎市を襲うであろう無数の津波のパターンをシミュレーションで学習させる

2.実際に津波が発生したら、相模湾・駿河湾の沖合に設置された波浪計から観測データを受信

3.観測データとAIによる事前シミュレーションの結果をもとに津波の大きさを高精度で予測する

川崎市では「南海トラフ地震」が起きた場合、最大3.7メートルの津波が川崎市を襲うと想定。浸水域などきめ細やかな情報を住民に提供することで避難に役立てようとしています。

地域カスタマイズ型の津波予測

地域カスタマイズ型の津波予測:http://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/11/24.html

ソーシャル・ネットワーキング・サービスを活用した取り組みも

このようなAIを用いた大がかりな取り組みが着々と進行する一方で、私たちにもっと身近な電脳防災も始まっています。それが、ツイッターをはじめとするソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下、SNS)を用いた防災です。
東日本大震災を端緒に、災害時の情報収集や連絡などにSNSの活用が一般的になりました。その理由はスマートフォンの普及はもちろんのこと、SNSが持つ高い速報性にあります。不特定多数の個人が瞬時に情報発信者となれるSNSは、災害の動きをリアルタイムに近いスピード感で共有できるからです。

自然言語処理で膨大なデータを解析

しかし、そんなSNSにも問題が。それは「膨大すぎる投稿の数」。東日本大震災当日の3月11日のツイッター投稿数は3,300万件と途方もない数なのです。これらの投稿の中から本当に価値のある情報を見つけ出し避難などに役立てるのは、砂漠の中から1本の針を見つけ出すようなもの。
そこで、今注目を集めているのがAI研究における「自然言語処理」を用いた情報の取捨選択です。自然言語処理とは私たちが日常会話で使っている曖昧な表現を含む言葉(自然言語)をAIに処理させる技術のこと。
2018年4月、国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)は「AIを活用した災害時のSNS情報分析の訓練ガイドライン」を発表。まずは防災訓練から災害時に膨大な被災者からのSNS書き込みをAIで分析することに着手しました。
この取り組みが実を結べば、災害が発生した際にAIが数千万件の投稿を瞬時に分類し、私たちの避難に役立つ(価値のある)情報をすばやく提供してくれるようになるはずです。従来はTV・ラジオなどの既存メディアからしか得られなかった避難情報を、スマートフォンなどを介してより早く・ダイレクトに知ることができ、より迅速かつ正確に避難行動をとれるようになるでしょう。

SNS情報分析システム

SNS情報分析システムのイメージ:http://www.bosai.go.jp/press/2018/pdf/20180412_01_press.pdf

IoTとのシナジーでも大きな可能性を秘めたAI防災

このように自然災害の予知はまだまだ難しいものの、AI分野を中心にさまざまな防災や防災に役立つ災害予測へのアプローチが始まっています。また、AIと共に注目の分野であらゆる物がインターネットに接続する「IoT(インターネット・オブ・シングス)※」の分野からは地震センサーを導入した「IoT住宅」が登場するなど、最新技術を防災に活かそうとする取り組みは多岐にわたっています。
しかし、これらのテクノロジーはあくまで災害を予測するためのもの。私たちが自らの命を守るためには、これらを活用する「リテラシー」と常日頃からの「防災意識」を持ち続けることが重要です。テクノロジーがもたらす大いなるブレークスルーに期待する一方で、自らも備えは怠らない――そんなバランスのとれた防災意識を持ち続けたいものです。

※IoT(Internet of Things)…さまざまな「モノ(物)」がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み。モノのインターネット。
エビデンス取ったサイトURL等を列挙してください。

参照元:
南海トラフ
https://www.asahi.com/articles/ASL2963R5L29UBQU01P.html
MOWLAS
http://www.mowlas.bosai.go.jp/mowlas/
川崎市の津波対策
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/11/24.html
AI+SNS防災
http://www.bosai.go.jp/press/2018/pdf/20180412_01_press.pdf
IoT住宅
https://www.sankeibiz.jp/business/news/180802/bsc1808020500009-n1.htm

みんなの防災対策を教えてアンケート募集中 非常食・防災グッズ 防災のセレクトショップ SEI SHOP セイショップ

メルマガを読む

メルマガ登録バナー
メールアドレス(PC用のみ)
お名前
※メールアドレスと名前を入力し読者登録ボタンで購読

アーカイブ