消防庁の月別の出火データによると冬場にかけて「たばこ」が原因の火事が増加傾向を示し、「放火」も11月から増え始め、1~2月にピークを迎えます。冬は空気が乾燥し、防寒で暖房器具などの火を使う機会が増えるので火災が多くなるようです。火災は、財産のみならず思い出の詰まった大切な物、そして何よりも大切な命までも奪います。出火原因や、どのような対策をすれば火災を防げるかを知っておくと万が一のときに役立ち、火災発生のリスクを減らすことができます。
出火原因の1位は「たばこ」、2位は意外な「放火」
1.火災の総件数は年間約4万件、死傷者数約7,500人(2018年度消防庁データ)
1-1 出火件数
- 総出火件数:3万9,373件
- 建物火災件数:2万1,365件(54%)
※建物火災のうち住宅火災の件数:1万1,408件(建物火災の53%) - 車両火災:3.863件(10%)
- 船舶・航空機火災:1,356件(3%)
- 林野火災:1,284件(3%)
- その他火災:12,783件(32%)
1-2 火災による死傷者数
- 総死傷者数:7,508人
- 死亡者数:1,456人
- 負傷者数:6,052人
1-3 火災の種類と死傷者数
建物火災は全体の火災の半分強ですが、建物火災による死亡者数は1,142人(全体の78%)、負傷者数は5,198人(全体の86%)を占め、建物火災で死傷者が多く出ています。建物火災のなかでも、特に死亡者数は住宅火災で多く、自殺者などを除くと889人(建物火災死亡者数の86%)です。
そのなかで高齢者は73%の646人を占め、住宅火災では高齢者への注意・対策が必要です。高齢者の死亡が多いのは、迅速な行動ができないこと、少子高齢化などで高齢者のみの世帯が多く逃げ遅れや火災の発見が遅れるためです。高齢者の被害を防ぐには、高齢者のいる家族は高齢者が犠牲になりやすいことをよく知って、火災のとき誰が高齢者を避難させるか、また逃げるルートを考えておくこと、高齢者世帯では火災警報器の設置数を増やすなどの対策が必要です。
2.出火の原因
出火の原因を火災全体と死傷者数が多い建物火災についてみると以下の表となります。
(2018年度消防庁データ)
■総出火の原因別件数
順位 | 原因 | 件数 | 構成比 |
1位 | たばこ | 3,712 | 9.4% |
2位 | 放火 | 3,528 | 9.0% |
3位 | こんろ | 3,032 | 7.7% |
4位 | たき火 | 2,857 | 7.3% |
5位 | 放火の疑い | 2,305 | 5.9% |
6位 | 火入れ | 1,772 | 4.5% |
7位 | 電灯・電話線など配線 | 1,453 | 3.7% |
8位 | ストーブ | 1,355 | 3.4% |
9位 | 電気機器 | 1.277 | 3.2% |
10位 | ケーブルなどの配線器具 | 1,221 | 3.1% |
総件数 | 39,373 | 100.0% |
■建物火災の出火原因別件数
順位 | 原因 | 件数 | 構成比 |
1位 | こんろ | 2,986 | 14.0% |
2位 | たばこ | 2,025 | 9.5% |
3位 | 放火 | 1,635 | 7.7% |
4位 | ストーブ | 1,330 | 6.3% |
5位 | ケーブルなどの配線器具 | 1,036 | 4.8% |
6位 | 電灯・電話線など配線 | 1,008 | 4.7% |
7位 | 電気機器 | 971 | 4.5% |
8位 | 放火の疑い | 821 | 3.8% |
9位 | たき火 | 401 | 1.9% |
10位 | 電気装置 | 390 | 1.8% |
総件数 | 21,365 | 100.0% |
消防庁のデータによると火災全体の出火の原因別では、「たばこ」が一番多く、以下、「放火」「こんろ」「たき火」と続きます。しかし、5位の「放火の疑い」を「放火」に含めると放火関連での火災が5,833件(14.8%)で最も多くなります。
人的被害が大きな建物火災の出火原因にかぎると、「こんろ」が2位の「たばこ」を大きく上回り、3位の「放火」と8位の「放火の疑い」の合計よりも多くなります。
3.意外な出火原因
火災はさまざまな原因で起こります。ふだんあまり気が付かない意外な出火原因として3つの事例を紹介します。
3-1 電子レンジによる間違った加熱で出火
東京消防庁は、電子レンジによる火災が年間30件程度発生し、増加傾向だとして注意を促しています。「食品を必要以上に長い時間加熱」「調理不可の包装(アルミを使って包装したものなど)のまま加熱」するなどの誤った使用方法で火災が発生しています。
再現実験として電子レンジ(700W)で、120gの焼き芋を6分26秒加熱すると、爆発的に燃焼が発生しました。爆発的に燃焼が起こる理由は、長時間加熱で食品の水分が蒸発し、食品が炭化、発生した可燃性ガスに炭化部分が帯電し、引火するからだと考えられています。
電子レンジによる出火の防止対策:
- 取扱説明書を見て食品にあった正しい使い方をする
- 加熱中は電子レンジのそばを離れないで、異常が起きたらすぐに電子レンジのコンセントを抜く
3-2 衣類乾燥機に入れた服から出火
アロマオイルなどがしみこんだ衣類を洗濯し、乾燥機で乾燥させてそのまま放置すると、衣類に残っていたオイルが酸化反応で発熱、自然発火して乾燥機が焼ける火災事故が起きる、と埼玉消防組合が警告しています。発火する理由は、衣類乾燥機のようなせまい密閉された空間では、オイルが酸化するとき発生する熱が蓄積して温度が上昇し、発火するのです。
オイルによる発火の防止対策:
- オイルがしみこんだ衣類の乾燥は、乾燥が終わったら、すぐに取り出して外気にふれる状態にする
3-3 IHクッキングヒーターから出火
神戸市は、安全と思われているIHクッキングヒーターでも使い方を間違うと火災が発生すると注意を促しています。少量の天ぷらを揚げるために、小さな鍋にてんぷら油を少し(100mlほど)入れて加熱中、他の用事で約3分間台所を離れたところ、てんぷら油が発火して火災が発生。火災になった理由は台所を離れた他に、油が急速に加熱されたため、安全装置の作動が間に合わなかったからです。
IHクッキングヒーターの使用方法の間違いによる火災の防止対策:
- 取扱説明書をきちんと読んで正しく使用する
- 油などの燃えやすいもので調理をしているときは決して電源を入れたままIHクッキングヒーターのそばから離れない
冬場の火災予防方法
出火原因として注意すべき「たばこ」と「放火」について、火災を予防する方法について紹介します。
1.たばこ
- 喫煙場所を決める
※自宅では、燃えやすいものがそばにない場所を喫煙場所に決め、そこでしか吸わないようにしましょう - 灰皿に水を張り,確実にたばこの火を消す
※特に就寝前や出掛ける前には、確実に消えているかを確認しましょう(たばこの火は火災になるまでに時間がかかることから、気づかないことがあります) - 寝たばこは絶対にやめる
※特に飲酒時の寝たばこは注意力が散漫になるため止めましょう。また、念のため布団、シーツなどの寝具類やパジャマなどの衣類を防炎仕様にするといった工夫も - 法令で決められた数以上の住宅用火災警報器を設置する
- 外ではたばこのポイ捨ては絶対にしない
- たばこそのものをやめるか、電子タバコにする
2.放火
放火に対する効果的な対策は、放火魔が火をつけたくなる場所、火をつけやすい場所をそれぞれの家庭、および地域全体でなくすことです。
2-1 放火犯が火をつけたい場所、火をつけやすい場所をなくす対策
- 家のまわりはいつも整理整頓し、段ボールなどの燃えやすいものは置かないようにする
- ごみは、決められた日の朝に出す。それ以外には出さない
- 物置や車庫など、外部から簡単に侵入できないように必ずカギをかけておく
- 家のまわりに外灯などをつけ、明るくする
※放火魔は、留守のときや、暗闇で見つかりにくい場所を狙います - 地域ぐるみ、まちぐるみで放火防止に取り組む
- 防犯カメラのあることが簡単に分かるように設置する
2-2 放火による被害を少なくする対策
- 車やオートバイのボディカバーなどは防炎製品にする
- 消火器、三角消火バケツ、法令で定めらえた数以上の住宅用火災警報器などを備える
万が一の火災に備え準備しておきたいモノ
1.さまざまな防炎品
カーテン(布製や木製のブラインドを含む)、じゅうたん、マット、寝具類(衣類を含む)、ふすまや障子の紙などがあります。これらには以下のようなマークが付いています。
また、簡易的にスプレーをすることで布、紙、木材などを燃えにくくする防炎スプレー剤も販売されています。
2.早期消火に役立つ消火器
消火器は、「住宅用」と「業務用」に大別されます。住宅用消火器は、住宅火災に適した消火器で簡単な操作で使用できます。消火器に以下のような図が表示してあります。用途にあっているかを確認しましょう。
いざというときに役に立つ防炎品や消火器は準備してありますか?使い方はわかっていますか?消火器を用意していても、いざというときに使えないと意味がありません。探さなくてもよいように分かりやすく、すぐ取り出せる場所に置いて、使い方をしっかり確認しておきましょう。また、消火器には使用期限があり住宅用消火器は約5年です。使用期限を過ぎると破裂するなどの危険性があるので注意が必要です。
まとめ
火災のさまざまな原因を知り、最も多い原因の「たばこ」と「放火」に対する予防策について紹介しました。冬に向かって火災の多くなる時期ですが、しっかり予防して、備えをしておけば被害を最小限に抑えられます。
参考サイト