災害時の死者・行方不明者の氏名の公表をどうするのか? [編集長コラム]
災害時の死者・行方不明者の氏名の公表をどうするのか?
――――というのは、もう何年も前から議論となってきた倫理的に難しい問題である。
12人が死傷した昨年(2018年1月23日)の草津白根山噴火の際に、冬季訓練中の陸自第12旅団(群馬県榛東村)の隊員が巻き込まれたが、「遺族の同意を得るのに時間を要した」ために亡くなった自衛隊員の氏名公表まで丸2日かかった、という。
プライバシー保護を優先した形だが、要は自衛隊内でご遺族への忖度があったのだろうと推察される。
確かに、何らかの事情で周りに氏名を知られたくない人もいる一方で、氏名が公表されないことにより安否確認が進まない弊害もある。
災害時といった刻々と事態が変化する現場では、早い段階での安否不明者(行方不明者)の正確な情報の公表が、命を左右するケースもあるのである。
昨年7月に死者・行方不明者232人をだした西日本豪雨(平成30年7月豪雨)でも、当初、県によって対応が分かれたそうだが、岡山県では安否不明者の氏名を早い段階で公表したことで、近隣住民らの情報提供によって消防の捜索範囲が絞り込まれ救助が円滑化できた。
政府の「防災基本計画」では死者と不明者の数は「都道府県が一元的に集約する」としているが、氏名の公表に関する規定はないのだという。
法律でも、災害時の死者・行方不明者の情報の公表を禁じらておらず、また、個人情報保護法(第23条第1項第2号)でも「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当する場合は本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供することができる。
日本の防災制度では、国ではなく、災害で罹災した住民を守る最前線となる行政組織が直接指揮をとるのがほとんどだ。
しかし個人のプライバシー権が尊重される昨今において、「氏名の公表」といった、たいへんデリケートでセンシティブな問題は、直接当事者となる市町村だけでは決められないのも事実である。
国や官僚さんは地方に面倒だからと「行政に丸投げ」せずに、国としてある程度の方針を作るべきだろう問題だと私も思う。
本件(災害時の死者、行方不明者の氏名の統一的な公開基準の策定)については、昨年(2018年)7月に元ニセコ町長で現立憲民主党衆議院議員の逢坂誠二氏が、国会に質問書を提出され《FYI参照のこと》、政府は「統一的な基準を定めることは考えていないが、正式に提言を受けてから対応する」としていた。
そんななかで、今年7月8日、全国知事会が、死者・行方不明者の氏名公表について国に全国統一の基準策定を求める提言案をまとめた、という。
今後は7月23日からの全国知事会議で正式決定され、国へと提出されるのだろう、と思う。
社会で議論することは、たいへん良い流れである。
なお、多くの災害の研究者らが仰っているのと同様に「特別な事情がない限りは、死者・行方不明者の氏名は基本的には公表するべき」だと私も思っている。
災害時には多くの人たちが自分の親族や関係者の安否情報を求めるものなので、ここで余計な混乱を招かないよう情報はできるだけ正確に出すべきだ、と思っているからである。
《FYI》
■日経新聞 > 災害犠牲者の氏名公表、統一基準を 全国知事会(2019.7.8)
■国会 > 大規模災害時における死者、行方不明者の氏名の統一的な公開基準の策定に関する質問主意書(逢坂誠二)(2018.7.13提出)
■朝日新聞 > 「県が氏名発表」認識にズレ 草津白根山噴火、死亡の自衛隊員(2018.2.3)
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