日本は火山列島という特異な地形のため、古代より災害が多い国としても知られています。
昨今では地球温暖化に伴う気候変動もクローズアップされており、“異常気象”と呼ばれる気象災害が過去に例をみないペースで発生しています。
こういった背景もあり、災害に関する研究や関心も高まっているなかで興味深い巷説に注目が集まっています。
それは、「いのしし年は災害が多い」というものです。
干支別災害回数
干支 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 |
子年ね(ずみ) | 福井地震 | アイオン台風 | チリ地震津波 | 台風6、7、9号及び7月豪雨 | 長野県西部地震 |
丑年うし | |||||
寅年とら | ジェーン台風 | 伊豆半島沖地震 | 伊豆大島噴火 | 平成22年の大雪等 | |
卯年う(さぎ) | ルース台風 | 昭和38年1月豪雨 | 東日本大震災 | 平成23年台風12号 | 平成23年の大雪等 |
辰年たつ | 十勝沖地震 | 新潟地震 | 台風17号及び9月豪雨 | 有珠山噴火 | 三宅島噴火及び新島・神津島近海地震 |
巳年み | 大雨 | 南紀豪雨 | 台風23、24、25号 | 雪害 | 有珠山噴火 |
午年うま | 風害 | 洞爺丸台風 | 台風24、26号 | 伊豆大島近海地震 | 宮城県沖地震 |
未年ひつじ | 7、8月豪雨 | 台風20号 | |||
申年さる | 十勝沖地震 | 雪害 | 台風23号 | 新潟県中越地震 | 熊本地震 |
酉年とり | 三河地震 | 枕崎台風 | 諫早豪雨 | 北海道南西沖地震 | 平成5年8月豪雨 |
戌年いぬ | 南海地震 | 阿蘇山噴火 | 狩野川台風 | 7・8月豪雨及び台風10号 | 大阪北部地震 |
猪年い(のしし) | 浅間山噴火 | カスリーン台風 | 伊勢湾台風 | 日本海中部地震 | 梅雨前線 |
干支 | 6回 | 7回 | 8回 | 9回 | 合計 |
子年ね(ずみ) | 岩手・宮城内陸地震 | 6回 | |||
丑年うし | 0回 | ||||
寅年とら | 4回 | ||||
卯年う(さぎ) | 5回 | ||||
辰年たつ | 平成24年の大雪等 | 6回 | |||
巳年み | 平成25年の大雪等 | 6回 | |||
午年うま | 雲仙岳噴火 | 広島土砂災害 | 御嶽山噴火 | 8回 | |
未年ひつじ | 2回 | ||||
申年さる | 平成28年台風7、9、10、11、13号 | 6回 | |||
酉年とり | 平成18年豪雨 | 平成29年7月九州北部豪雨 | 7回 | ||
戌年いぬ | 平成30年7月豪雨 | 北海道胆振東部地震 | 7回 | ||
猪年い(のしし) | 三宅島噴火 | 雪害 | 阪神・淡路大震災 | 新潟県中越沖地震 | 9回 |
上記の表は、干支別に起きた大規模な災害と回数をまとめたものです。(内閣府発表の「平成30年度版防災白書」の付属資料を参考)
最初に注目しなければならないのが、いのしし年に発生した災害規模と回数です。
いのしし年は、十二支のなかで大規模災害が発生している回数が9回と最も多く、記憶に新しい災害の名前も含まれています。
とくに、「伊勢湾台風」「三宅島噴火」「阪神・淡路大震災」「新潟県中越沖地震」など、多くの人が印象に残っているような災害も多いのが特徴の1つともいえます。
では、他の干支と比較したときにはどのような結果が見えてくるでしょうか。
死者・行方不明者が1番多いのは“うさぎ年”
前述した表を参考にすると、すべての干支のなかでも死者・行方不明者を伴う大規模災害の発生回数ワースト1位はいのしし年。2位はうま年、3位タイはとり年といぬ年とわかります。
干支 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 |
子年ね(ずみ) | 3769 | 838 | 142 | 447 | 29 |
丑年うし | |||||
寅年とら | 539 | 30 | 0 | 128 | |
卯年う(さぎ) | 943 | 231 | 22199 | 98 | 133 |
辰年たつ | 33 | 26 | 171 | 0 | 1 |
巳年み | 1013 | 1124 | 181 | 101 | 3 |
午年うま | 670 | 1761 | 317 | 25 | 28 |
未年ひつじ | 256 | 115 | |||
申年さる | 52 | 152 | 98 | 68 | 267 |
酉年とり | 2306 | 3756 | 722 | 230 | 79 |
戌年いぬ | 1143 | 12 | 1269 | 439 | 4 |
猪年い(のしし) | 11 | 1930 | 5098 | 104 | 117 |
干支 | 6回 | 7回 | 8回 | 9回 | 合計 |
子年ね(ずみ) | 23 | 5248 | |||
丑年うし | 0 | ||||
寅年とら | 697 | ||||
卯年う(さぎ) | 23604 | ||||
辰年たつ | 104 | 335 | |||
巳年み | 95 | 2517 | |||
午年うま | 44 | 77 | 63 | 2985 | |
未年ひつじ | 371 | ||||
申年さる | 31 | 668 | |||
酉年とり | 152 | 42 | 7287 | ||
戌年いぬ | 245 | 42 | 3154 | ||
猪年い(のしし) | 0 | 131 | 6347 | 15 | 13843 |
しかし、上記の図(「平成30年度版防災白書」の付属資料を参考)をみて死者・行方不明者だけで比較してみると“うさぎ年”が1番多いという結果になりました。
大規模災害の発生回数は、いのしし年の9回に比べるとうさぎ年は5回と少なく、台風や豪雪被害が目立ちます。
ただし、そのなかでも最も鮮明に多くの人の記憶に残っている「東日本大震災」が含まれていることに着目する必要があります。
この「東日本大震災」は、死者・行方不明者の総数が22,000人超(統計資料作成時点)となっており、大規模災害のなかでも圧倒的な犠牲者の数を出しています。そのため、うさぎ年が死者・行方不明者数では1番多いという結果になったのです。
一方で、表を参考にしてもわかるように、うし年だけは大規模な災害が発生していないという結果になっています。そのため、大規模災害による死者・行方不明者数も全干支のなかで0人という結果でした。
“平成“のみで比較すると
昭和20年以降の大規模災害をまとめて検討してきましたが、平成に起きた災害だけで比較した場合はどうなるのでしょうか。
平成2年に発生した「雲仙岳噴火」は長期に亘るため、「北海道南西沖地震」が発生した平成5年以降24年間のデータを比較していきたいと思います。
平成に発生した災害を比較した場合でも、死者・行方不明者数がもっとも多いのは“うさぎ年”となっており、前述したように「東日本大震災」の影響が大きな要因となっています。
次点で、さる年・とり年の死者・行方不明者数が多いという結果になりますが、それ以外の干支ではほぼ横ばいの数字でした。
このような結果から、平成では「阪神・淡路大震災」や「東日本大震災」などの大規模な地震に伴う災害による死者・行方不明者数が圧倒的に多いとわかります。
「南海トラフ巨大地震」を干支で考える
2011年3月11日に発生した「東日本大震災」を皮切りに、現在最も危惧されている災害が「南海トラフ巨大地震」です。
この「南海トラフ巨大地震」とは、南海トラフと呼ばれている海溝沿いにある、プレート境界によって発生するであろう巨大地震を想定し呼称しているものです。
「南海トラフ地震」自体は100~150年間隔で発生しており、前回の「昭和南海地震」から70年以上が経過していることからも切迫性が増しているのです。
南海トラフ地震で想定される震度分布
この「南海トラフ巨大地震」がとくに危険視されているのは、上記の図のように広い地域で甚大な被害が発生すると予想されているからです。
では、この「南海トラフ巨大地震」を干支でみていきたいと思います。
白鳳地震(684年) | 申年 |
仁和地震(887年) | 未年 |
永長東海地震(1096年) | 子年 |
康和南海地震(1099年) | 卯年 |
正平東海地震(1361年) | 丑年 |
正平南海地震(1361年) | 丑年 |
明応地震(1498年) | 午年 |
慶長地震(1605年) | 巳年 |
宝永地震(1707年) | 亥年 |
安政東海地震(1854年) | 寅年 |
安政南海地震(1854年) | 寅年 |
昭和東南海地震(1944年) | 申年 |
昭和南海地震(1946年) | 戌年 |
上記は、過去の「南海トラフ地震」が発生した干支と名前を表にしたものです。
もちろん、前述したように100~150年間隔で地震が発生していること以外には、統一性や関係性があるとは考えにくい結果となりました。
干支に左右されない心構えと準備が大切
このように、「南海トラフ地震」では干支による偏りが見受けられないため、干支と地震に因果関係を認めることは難しいと考えられます。
また、災害別の発生回数では”いのしし年“に発生回数が多いという結果になりましたが、死者・行方不明者別では”うさぎ年”が最も多いという結果になりました。
これらのことから、いのしし年だから大規模な災害が発生するという可能性は高いといえないでしょう。
一方で、干支で比較していくなかで特異性が目立ったのは“うし年”です。もちろん、うし年にも災害は発生していますが、大規模災害や多数の死者・行方不明者の発生が圧倒的に少ないのです。
ただし、過去に発生した災害と干支の結果だけで判断をするのではなく、日ごろから災害に備えた準備をしておくことが大切となってきます。
干支と災害の興味深い関係性をきっかけに、災害への備えについても考えてみてはいかがでしょうか。