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BCPの訓練と準備 【シリーズ BCPの教室(第2回)】

time 2022/05/25

BCPの訓練と準備   【シリーズ BCPの教室(第2回)】

前回のシリーズBCPの教室(第1回)では、企業が行うべき危機管理、防災、BCPのお話を致しました。今回は、BCP訓練について、必要とされる背景や準備、実施方法などをお話し致します。 [※シリーズ BCPの教室のバックナンバーはこちら]


シリーズ BCPの教室(第2回)

BCPの訓練と準備

著者:林田朋之(プリンシプルBCP研究所 所長)

 

BCP 訓練とは

「訓練」と聞くと、例えば、消防署が行う防火訓練や、9月1日に毎年実施する防災訓練を思い出す方が多いと思います。

企業で行う防火訓練や防災訓練は、会社の従業員を対象に、出火の際の消火行動や地震が起きた時の避難行動を実施しますが、BCP訓練は、対策本部の組織的行動をシミュレーションするものです。

では、対策本部訓練の組織的行動とは、どういったものでしょうか。

通常コロナ禍以前は、予め決められた対策本部メンバー(経営陣が主体)が、大きな会議室(対策本部室)に集まり、初動フェーズでは、従業員安否や、会社設備の被災状況、IT の被災状況、社内外のインフラ、鉄道の運行状況や、道路交通の状況、通信の利用可否などの調査をし情報共有します。本質的には、企業リソースである、ヒト、モノ、カネ、ジョウホウの被害情報を収集することで、利用可能なリソースを把握し、中核となる会社事業の何が継続できるかを判断し、実行するということが対策本部の仕事でした。

このような状況を想定してシミュレーション行動するイベントが、いわゆるBCP訓練です。

つまりBCP訓練の主体は、従業員ではなく、対策本部の事務局とメンバーが中心となって行うことになります。

発災直後から、BCP活動の司令塔となる事務局の仕事について、順を追ってご説明します。

先ず、自助、救命救護、避難誘導等を経て、対策本部の作業グループである…

    “安否確認グループ”に対して安否確認システム発動

    “社内被災情報収集グループ”に対してオフィスの被害状況の調査


…の指示を出すことからはじまります。ここでは「ヒト」と「モノ」の被害状況を把握する最初の対策本部の行動となります。

社内の被災情報収集とは、オフィスの建物の被害、例えば天井の崩落や壁のクラックや崩れ、什器の転倒、エレベータの運行状況と閉じ込めの有無などの調査です。

この行動と並行して、事務局は、対策本部室の設えとメンバー招集に関する行動をするのですが、コロナ禍の今、対策本部運営の状況は一変しています。

対策本部室に集まることや大声での指示、議論は出来ません。またメンバー招集に関しても、呼びかけのために電話をすることもありません。

事務局が行うことは、メンバーに対して、リモート会議のサイバースペースが対策本部室となるようリモート会議の参集URLをメール等で通知することです。

このリモート会議の対策本部活動は、どの企業も実施されておらず、規模の大小に関わらず全ての企業で訓練を行って頂く意味があります。

 

BCP訓練のテーマ

このような初動フェーズのリモートBCP対策本部訓練において、最初のテーマとなるのは、リスクコミュニケーションです。つまり、対策本部や他の被災事業所が集めた情報を対策本部長に報告する行動です。これを危機管理では、「エスカレーション」といいます。

集めた情報を対策本部長にエスカレーションした後、次のテーマは「情報発信」です。従業員への情報発信とステークホルダーへの情報発信を意味しますが、これも訓練の中に織り込みます。訓練の最中に情報発信の内容を検討するのではなく、予め作成したものを対策本部長に承認を得るという体で行います。

 

何故BCP訓練を行わなければならないのか

BCP対策本部訓練には、実施すべき理由が三つあります。

一つ目は、対策本部活動や事務局活動を事前にシミュレーションすることで、有事発生時に、スムーズな対策本部活動が出来るという効果です。マニュアルを読んだだけでは直ぐに行動と結びつかないため、必ず訓練によって、行動を身に沁み込ませます。

二つ目は、災害有事に際してのメンタルの安定です。

通常、ヒトは、強い地震災害が発生した直後は、惨事ストレスを受けパニックに陥ります。パニックの現れ方は人それぞれなのですが、ある人は、声を出してパニックになっていたり、また違うケースでは、冷静そうに見えて、心の中でパニックになっている「正常性バイアス」というケースがあります。正常性バイアスとは、惨事などに遭遇した際、精神的に平衡に保ちたい意識が正しい判断を狂わせることがあり、例えば東日本大震災の時に、ある会社の管理職が、周囲に対して津波の避難を行わせなかったことで悲劇が発生したことが知られていますが、正常性バイアスの拙い点は、責任ある立場の人になり易く、またそれが周囲に悪影響を及ぼすことがある点です。つまり対策本部のメンバーは、正常性バイアスの状態をお互いにチェックしておく必要があると同時に、メンタルの安定、災害時のストレス耐性を強化することが求められます。BCP訓練を実施することで、組織としての行動をシミュレーションするわけですが、経営陣や管理職の立場の人のパニックを未然に防ぎ、対策本部運営の健全性に対する効果が大いに期待出来ます。

三つ目は、労務問題です。

災害時にも、労務管理は必要であり、労働契約法の「安全配慮義務」が求められます。もし地震が発生して、対策本部の行動マニュアルや訓練が行われていなかったケースで、従業員に怪我人などが出た場合、組織は安全配慮義務違反として、民事訴訟になれば賠償金を支払わなければならない可能性があります。

こういった事態は、SNS時代においては大問題で、賠償金ばかりでなく、SNSに対応の拙さが出た場合、会社の風評被害は避けられません。

安全配慮していることの証左は、防災マニュアルではなく、BCP関連マニュアルとBCP訓練のセットが必要となります。つまり組織としてBCP活動の一環として従業員の安全配慮がなされていたかを問われるということです。

 

BCP訓練の進め方

リモートBCP対策本部訓練の進め方には、以下のようなマイルストンがあります。

    ❶ 訓練内容の概要を作成する

【訓練概要(例)】

    A. 訓練テーマ:「リスク・コミュニケーション」と「エスカレーション」

      ・ビデオ会議対策本部のリスクコミュニケーションを体感する

    B. 訓練参加拠点エリア数:本社+拠点 A+拠点 B の3か所

    C. 訓練アクション:初動フェーズ(発災~ 6 時間程度以内)

      a.「拠点」が、発災 2 時間以内の被災状況 を「事務局」に速報
      b.「事務局」が、発災 2 時間以内の収集情報を「対策本部長」に速報
      c.「各拠点」が、4 時間経過後までの収集情報 を「本社対策本部」に詳細報告

    D. 災対ポータル、従業員への情報発信、広報発信 について、それぞれ確認を行う

    E. 訓練時間: 2 時間 30 分

    ❷ 訓練シナリオを設定する:例. 南海トラフ地震が発生し、本社と拠点に人的、物的被害が出ている等

    ❸ 訓練の参加者を設定する:例. 司会、事務局、拠点担当、対策本部長役、オブザーバー等

    ❹ 訓練次第を作成する:下表参照

BCP訓練の進め方

BCP訓練の進め方

    ❺ 訓練計画書を作る

【目次案(例)】

    Ⅰ. 従来の BCP 対策本部訓練の課題と感染防止対策

    Ⅱ. 今期のリモート BCP 対策本部訓練の目的

    Ⅲ. リモート BCP 対策本部訓練の開催日時

    Ⅳ. リモート BCP 対策本部訓練のシナリオ

    Ⅴ. リモート BCP 対策本部訓練の直接参加部門と担当者

    Ⅵ. リモート BCP 対策本部訓練のオブザーバー参加者

    Ⅶ. リモート BCP 対策本部訓練 次第

    Ⅷ. リモート BCP 対策本部訓練 IT ツール

      a. ビデオ会議システムと参加方法について
      b. 災対ポータルサイトの閲覧方法について

    Ⅸ. 訓練終了後のアンケート評価と危機管理委員会への報告

    ❻ 災害対策ポータルサイトを構築する


―――このようなマイルストンを経て、訓練実施という流れになります。

リモート会議形式のBCP訓練では、会議室で行う従来型の訓練と比較して多くのメリットがあります。


    従来型と比較したリモート会議形式BCP訓練のメリット

     マニュアルを実体感することで、読むよりも、身体に覚え込ませやすい

     マニュアル通りに行うことで、マニュアルの課題を見つけ易い

     安定した精神状態で訓練を行うことが出来る

     アクションを時間配分通りに実施することが出来、訓練時間の長短がない

     オブザーバーが理解し易く、参加者と同様の訓練体感効果が得られる

     オブザーバーが意見/コメントを言い易い

     オブザーバーの数に制限がない

     シミュレーション訓練によって、想定される劣悪な現実との差を見出し易い


みなさんの企業でも、是非今年度、リモートBCP対策本部訓練を計画立案し実施してください。また必ず実施したことを会社のホームページにニュースリリースとしてアップして下さい。必ず顧客や取引先、ステークホルダーから評価を受けるはずです。

 

ご参考:Microsoft 365 SharePoint を使った災害ポータルサイトの作り方


     SharePoint スタートページの画面左上「+サイトの作成」からスタート

     「新しいサイトの作成」画面で、「コミュニケーションサイト」を選択

     「サイト名」、「サイトアドレス名」、「言語」を設定 ⇒ 「完了」

     自動設定された画面の「編集」機能により、メインビジュアルの設定、「ニュース」、「イベント」、「ドキュメント」、「クイックリンク」の項目はそのまま使用して、必要なテキストの入力、ドキュメントのアップとリンク情報を入力して出来上がり!

     その他、デザインやロゴ、サイトアクセス対象者などを必要に応じて別途設定カスタマイズする。

    制作時間:約30 ~ 60 分

    Microsoft 365 SharePoint を使った災害ポータルサイトの作り方

 


著者:林田朋之(はやしだ・ともゆき)


北海道大学大学院修了後、富士通株式を経て、米シスコシステムズ入社。
独立コンサルタントとして、大企業、中堅企業のIT、情報セキュリティ、危機管理、震災および新型インフルエンザのBCP、クラウド・リスクマネジメントなどのコンサルティング業務を実施。BCP講師としてNHKニュース等に出演。
現在、プリンシプルBCP研究所所長として、企業の危機管理、BCP、情報セキュリティ、ITインフラシステム等のコンサルティング業務、講演に従事。

【関連リンク】
・プリンシプルBCP研究所:https://www.principle-bcp.com/
ダイヤモンドオンライン:連載 コロナから会社を守るBCP
リスク対策.com:シリーズ 企業を変えるBCP

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