 
		東日本大震災の際、宮城県名取市の沿岸地区・閖上(ゆりあげ)では震度6強の地震が起きました。土壁が崩れる、ガラス戸が飛び散るなどの被害がありましたが、ほとんどの建物は倒壊を免れ、震災直後多くの住民は無事だったと思われます。
しかし、1時間後に襲った津波によって全住民の13.6%にあたる689人が亡くなっています。地震発生から大津波が襲うまで時間があったにもかかわらず、なぜ逃げなかったのでしょうか。
「なぜ逃げなかったのか」考えられる3つの原因
1つめは、市の警報システムが機能しなかったことです。
名取市が震災の2年前に約6000万円を投じて導入した最新の防災無線システムは、地震とともにダウンしてしまいました。街は静まり返り、防災警報が鳴らなかったことで逆に安心してしまった住民も多かったといいます。
2つめは、過去の体験から大きな津波は来ないと判断した住民が多かったことです。貞山堀と呼ばれる運河の水が引いてなかったために津波は来ないと判断した住民もいましたが、実際は川などの水が引かなくても津波が押し寄せる可能性はあります。震災の1年前の2010年2月27日に大津波警報が発令され、閖上の一部地域で避難指示が出された際にも被害が出なかったことも、住民の津波に対する軽視につながったと思われます。
3つめは、自分が逃げることよりも家族や隣人を助けることを選んだからです。
一部の住民は名取市中心部や仙台市内など安全な場所にいたにも関わらず、家族を助けに閖上に戻りました。わかっているだけでも20人は亡くなっています。

出典:YouTube 名取市東日本大震災映像記録~未来への記憶~
自ら考え、行動すること
3つの理由を挙げてみました。そこから私たちはどんな教訓を得るべきでしょうか。
1つは国や行政などのシステムが必ずしも機能するとは限らないことです。
地震や津波が発生した際、「警報が鳴る」「救助が来る」と当たり前のように考えるのは危険です。「完璧なシステムや支援はない」。そうした心構えがあれば、警報の有無に関わらず、地震が起きたらテレビやラジオをつける、水や食料などを備えておくといった行動ができるのではないでしょうか。
2つめは、過去の災害の経験や既存の想定にとらわれすぎないことです。片田敏孝・群馬大学教授は「ハザードマップで自分の住んでいる地域や学校が、津波に襲われる危険があると知ることはとても大切です。しかし浸水想定区域から外れた人にとっては、安心材料になりかねない。そうした災害イメージをうち破る教育が必要なのです」と述べています。
3つめの、家族を助けるために亡くなった人に関しては、簡単な答えがでません。自分の命を守ることを第一に考えるのか、身を挺して家族を助けるのか、それは人間の生き方に関わることだからです。
家族を信じあえる準備ができているか
ヒントは、お互いに自分の命を守るために別々に行動した岩手県釜石市の親子にあると思います。あえて子どもを助けに自宅に戻ったりはしなかった母親は、「息子なら必ず避難している」と信じて自らの命を守り、ともに生き抜くことができました。
「息子なら(娘なら、妻なら、夫なら)必ず避難している」と信じるだけの準備が、私たちにできているでしょうか。
災害時に離れ離れになっても、「あいつなら無事に生き抜いてくれる」と信じられるだけの準備をしましょう。自宅での備えを万全にし、家族みんなで災害時の約束ごとを交わし、災害を生き抜く術について学びましょう。
防災について家族みんなで考えることが、結果的に家族を助け、自らを助けることにつながると思います。

 
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