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高知県黒潮町の『南海トラフ地震・津波の防災計画基本理念』に書かれている格言[今週の防災格言429]

time 2016/03/07

『あきらめない。
揺れたら逃げる。
より早く、より安全なところへ。』

高知県黒潮町「南海トラフ地震・津波の防災計画基本理念（2012年）」より

「最大震度7、最大34.4ｍの津波が最短2分で到達する」―――2012（平成24）年3月31日に発表された政府の南海トラフ巨大地震被害想定（南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高の推計）は、高知県黒潮町にとってショッキングな内容だった。
翌日（4月1日）には新聞紙面やテレビでセンセーショナルに報道され、地域全体の人口の80％が津波浸水危険区域に生活する黒潮町の「平地には逃げ場がない」ということとあわせて大きく取り上げられた。
しかし、この日、黒潮町役場には、町民からの問い合わせが一件も入らなかったという。巨大津波の想定を前にして、町民の多くが即座に避難を諦めてしまったからだ。

この「避難を諦めた人たち」を専門用語で「避難放棄者」と呼ぶ。

黒潮町では、常識をはるかに越える津波高と早い到達時間から町民への不安を解消させるため、基本理念「犠牲者ゼロの防災まちづくり」をかかげ、政府や高知県の財政支援を受けながら防災計画の見直し、避難路整備や耐震事業、地域担当制による地元協議など、他に類を見ない様々な防災活動がスピーディーに推進されることになる。

2012（平成24）年5月10日には、町の防災思想「第1次黒潮町の南海地震に対する基本的な考え方」がまとめられ、「絶対に避難放棄者を出さない」ことを柱に、わかりやすい標語「あきらめない揺れたら逃げるより早くより安全なところへ」が採用された。

この基本理念をもとにして、翌2013（平成25）年1月31日に、町（行政）・地域（コミュニティ）・個人（町民）のそれぞれの対策を具体化した「第2次黒潮町南海地震・津波防災計画」を策定する。

168ヶ所の避難場所を見直し、整備が必要な295ヶ所の避難道を洗い出すなど、町内の全61集落全ての「脆弱性診断図」が作成され、同時に、住民による自主的な避難訓練やワークショップが開催された。

役場の全職員に防災業務を兼務させる「防災地域担当制」を導入し、地域住民との活発なコミュニケーションを展開。浸水の恐れのある全世帯で「戸別津波避難カルテ」を作成したり、自力で命を守れる子供たちを育てる取り組みとして小中学校の「防災教育プログラム」を独自に作成するなど、他に類を見ない黒潮町の防災活動は、内閣府の2014（平成26）年版「防災白書」でも大きく取り上げられた。