世界でも有数の地震が多い地域として知られている日本。記憶に新しい東日本大震災のように甚大な被害をもたらす大地震が発生する可能性があることが、科学的な研究によっても明らかとなっています。その中でもよく名前を聞くのは「南海トラフ地震」ではないでしょうか。今回は、その南海トラフ地震の概要について解説します。
南海トラフ地震と今回の措置の特徴
南海トラフとは静岡県から四国の海底にあるフィリピン海プレートとユーラシアプレートがぶつかってできている溝のことで、過去にも大きな地震が何回も起きている、活動が活発な地域です。
気象庁によると、静岡の駿河湾から高知の土佐湾までの広範囲で、約100から150年周期で巨大地震が起こっており、前回の昭和東南海地震、昭和南海地震からはまだ70年の経過ではあるものの巨大地震の切迫性が高まっていることが発表されています。
静岡から宮崎県にかけての広い範囲が最大で震度6強~震度7の激震地となり、津波の高さは太平洋沿岸の広い地域で10メートルにも達すると予測されています。
南海トラフ地震に関して、気象庁は今年(2017年)11月1日から「南海トラフ地震に関する情報」及び「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を運用することを、9月26日に発表しています。
この取り組みは、南海トラフ地震の発生可能性を測るとともに、実際に南海トラフ周辺で起きた地震が南海トラフ地震と関連しているかを評価するためのものとなり、設置されたひずみ計に異常が観測された場合もしくは南海トラフ周辺でマグニチュード7以上の地震が発生した場合をきっかけとして実施されます。
異常や地震が観測された場合、30分以内に気象庁から調査が開始されたことがまず発表され、最短で2時間後に「3日以内に地震が発生する可能性が高い」「平常時よりも地震が発生する可能性が高まっている」などを、東京大学地震研究所の平田直教授を会長とする評価検討会の助言をもとに発表されることとなっています。
その後は随時情報が発信されますが、地震の可能性が下がった場合も同様に発表がなされます。この南海トラフに関わる運用方法は従来の大震法(大規模地震対策特別措置法)とは考え方が異なっていることが特徴です。
予知を主としていた大震法
大震法は、東海地震の「予知」を前提に防災情報を発信するという内容でした。つまり、地震発生前に地震の規模や場所などを想定することが可能だと判断していたとも言えます。
しかし1995年の阪神淡路大震災により地震予知に対する信頼が損なわれ、2011年の東日本大震災で想定外の被害が出たことなどから、2013年に政府の中央防災会議の調査部会が「現在の科学的知見からは確度の高い地震の予測は難しい(直前予知は困難)」とする報告書をまとめるに至り、防災情報の発信方法を見直すこととなりました。
東海地震予知を柱にした1978年の大震法から40年たった今年(2017年)9月。政府の中央防災会議は、南海トラフ地震対策のあり方の報告書案をまとめ、ここで初めて大震法の見直しの必要性が明示されることになります。これを受けて、気象庁では11月から運用をはじめる今回の暫定措置を取ることになりました。
これにより、首相から警戒宣言が事前に発表される直前予知の体制が事実上なくなり、以前の体制に代わって、気象庁が臨時情報をまず発表し、学識者を交えて評価検討をして、危なかったら続報が発表され、政府も国民に警戒を促すという流れなりました。
今後は、予知ではなく、南海トラフで異常な現象が観測されたタイミングで臨時の情報発信を行うこととなります。ただ、ここで気象庁が発表する「情報」は国民へ避難を呼びかける内容ではなく、その後に政府(内閣府)を通じて発表される内容も「避難所の場所を確認する」「家具を固定する」といったあいまいな対策の発表に留まるという側面もあります。
「揺れたら逃げる」がやはり大事
2012年に政府が発表した南海トラフ地震の被害予測は住民にとってはかなりショッキングな内容だったようです。しかし、人口の8割が被害地域に属している黒潮町の住民からは、どうせ避難できないだろうと避難すること自体を放棄してしまい、住民からの問い合わせが1件も無かったと言います。
そのため、被害予測が発表された翌月には「あきらめない 揺れたら逃げる より早く より安全なところへ」という標語を掲げ、町を上げて防災への意識を高め、結果住民の自主的な避難訓練やワークショップが行わるまでにいたっています。
現在、科学的には「どこで」「どんな規模の」地震が起こるのかは解明されつつあるようですが、残念ながら、東海地震予知が叫ばれてから40年を経てもなお、地震が「いつ・どこで発生するか」は分かっていません。今回「直前予知の困難」についてはじめて言及された点は、今後の地震対策にとって、画期的なできごとだったと思います。
政府では、今後、新たな防災体制の確立に向けたガイドライン等が作られることになり、また私たちも、今まで以上に住民それぞれの自主的な防災活動が求められることとなります。